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「仏公共テレビCM廃止決定」
プライムタイムから段階的に実施


CNC ロラン・コルミエ ディレクター
(c)八玉企画

 フランス公共テレビ(以下FT)でのCM廃止議論に決着がついた。一年前のサルコジ大統領の提案により、この議論は業界に大きな波紋を投じた。一年間の議論の末、2009年2月に廃止が議決され、公共テレビ運営は新時代に入った。アメリカ好き、財界寄りを自他共に認める大統領の大胆な提案は、公共テレビ運営に大きな不安を与えた。しかし、フランス及びヨーロッパの公共放送は日本と異なり、CMの導入は当然であり、NHKのように受信料のみの経営は少数派である。このCM廃止の穴埋めが最大の問題であり、併せてこの廃止について、CNC(フランス映画センター)テレビ部門、ロラン・コルミエ ディレクターにパリのCNC本部で詳しく話を聞いた。

フランスの映画産業において、テレビ産業の占める比重は極めて重い。映画入場料金の11%がタックスとして徴収され、CNCへ収められることは既に何度か本紙で記述した。その他に、テレビ局の総売り上げの5.5%の徴収が、CNCシステムの目玉で、5億ユーロ(邦貨 1ユーロ=130円換算で650億円)の総予算の内70%を占める。最早、テレビ局からの拠出無しでは、フランス映画産業は成立しない。他に、テレビ局は共同製作と作品放映権獲得のためのプリ・バイのため、映画製作に地上波局は3.5%、映画、スポーツに特化した有料ケーブル局、カナル・プリュスは20%の拠出が義務付けられている。公共テレビの重要な収入源であるCM廃止について、映画産業界は注目せざるを得ない。

廃止分、総予算30%分の補てんが課題

 フランス公共放送の総予算は、25億4800万ユーロ(邦貨約3312億円)(2007年統計)であった。内訳は受信料が70%、CM収入が30%、年間8億ユーロ(邦貨1040億円)であり、この分の補填が最大の課題だ。基本的に補填は政府資金となる。しかし、問題は政府が全額負担するかである。少なくとも現時点では政府保証は4.5億ユーロで当面は何とか凌げる。


CM放映時間の制限

 CM廃止の時間帯は夜8時以降で、朝6時から夜8時までは従来通りである。今回の法案可決で、段階的にCM廃止が実現し、2012年を全廃の最終期限としている。現行のように、夜8時以降のCM廃止により、プライムタイム番組が対象となる。言い換えれば、この視聴率が一番稼げる時間帯の映画放映は、今までもカットなしであり、前後にCMが集中的に流れた。人気のサッカー中継の場合、映画放映と異なり、ハーフタイムでのCM挿入は許可されていたが、こちらも廃止となった。では現存するCM枠であるが、朝6時から夜8時までは、従来通り一時間に最大8分を超えず、映画は4分に抑えられている。但し、総てはFTに対するCM規制であり、民間テレビ、TF1,M6、カナル・プリュスは従来どおりのCMが続く。例えば、民間テレビの一番局TF1の映画放映は最高4分までの途中でのCMが認められている。


広告収益の行く先

 財界寄り心情を隠さないサルコジ大統領の発意によるCM廃止、当初FTのCM収益が主としてヨーロッパ有数のゼネコンで、近年は携帯電話事業にも進出しているブイグ・グループのTF1を利するものと取沙汰された。昨今の不況でテレビ向けのCM広告費が減少し始め、昨年の民間テレビTF1、M6のCM収入は減少し、さらに広告費がインターネットへ流れる傾向を見せている。これは日本のテレビ事情と同様な現象だ。しかし、受信料に頼る有料ケーブル局カナル・プリュスは収入増である。同局の場合、約500万人と言われる視聴者数が固定し変動が少なく、経営の95%を受信料でまかなっているからである。


テレビ局のCM収入

 FTのCM収入は、同局にとり重要な財源であり、それ故に、大きな話題となった。FTにはF2,F3,F4,F5,アルテがあり、NHKに例えるなら、F2が第1テレビ、F3が第3テレビといえる。一般的に、主要なのはF2,F3で,この両局の視聴率合計が民間テレビのTF1と拮抗している。F2は57.7%が受信料収入、39・6%が広告収入、F3は57.3%と24%となっている。その比率は7対3、6対4であり、約30%強が公共放送のCM収入である。これらの局の総売り上げはTF1が29億ユーロ(邦貨3735億円)、M6が12.7億ユーロ(邦貨1650億円)、FTが26.5億ユーロ(邦貨3445億円)(2005年統計)である。


国会論議と受信料

 一年前にサルコジ大統領から公共テレビのCM廃止が提案され、それ以来、一年掛け両院からの7名ずつの議員による諮問委員会で内容が検討された。しかし、この議論、保革の対立ではなく、上院、下院の意見が異なったが、最終的には議決権を持つ下院で2月3日、賛成166、反対75で可決成立した。そして受信料は現行の116ユーロ(邦貨1万5千円)から120ユーロ(1万5600円)へと増額された。値上げは段階的で、2009年が118ユーロ、2010年が120ユーロである。即ち、年間値上げ額は2ユーロ、カフェでのコーヒー1杯分である。


受信料は2年で4ユーロの値上げ

 フランスの受信料はヨーロッパの中で、元々格別安い。(デンマーク274.4ユーロ、オーストリア242.9ユーロ、スウェーデン210.4ユーロ、ドイツ207ユーロと軒並み200ユーロを越えている。ヨーロッパで一番低い受信料はイタリアの102ユーロである)
 参考までに述べると、フランスの受信料徴収は法的強制力があり、NHKを悩ませる未払い問題はない。この4ユーロの値上げ、単純計算しても、4.5億ユーロの不足分を補うには全く足りない。これは、一応値上げはするというジェスチャーの意味合いが込められ、シンボル的数字であろう。



地デジ対策

 フランスの場合、アナログ放送停波は日本同様2011年である。このための対策として、受信料値上げが真先に考えられる。しかし、地デジ移行のための値上げ、現在までのところ全く具体化していない。今回の値上げと地デジとは関係なく、FTのCM収入減少のための受信料値上げで手一杯の様子がうかがえる。
 地デジ対策としては、基金を創設し、そこから低所得者層へのデコーダー配布、アンテナの設置などの基本構想があるが、これらはあくまで予定の段階とのこと。
 地デジへ移行の場合、アナログからデジタルへの変換設備に巨額の費用が必要となる。しかし、一端稼動すれば、運営費用はアナログよりも安価である。要するに、シネコンへキー局がデジタル波を流すようなもので、地デジ移行時の受信料値上げ議論が具体化しない理由はこの安価な稼動費にありそうだ。このように、FTのCM収入の補填と地デジ対策は分けて考えられている。



CM廃止の理由

 公共放送FTのCM廃止の理由について、先述のロラン・コルミエによれば、
「大統領に直接聞くしかない。その理由は恐らく誰に尋ねてもはっきりした回答は出ないだろう」とのこと。この問題、ミッテラン社会党政権時(81〜95)に出た議論であり、公共放送は受信料だけで運営すべきとのスジ論にサルコジ大統領が乗ったものであろう。現状の値上げ幅であれば、不足分は補えない。その不足分の財源は、電話事業会社、インターネット接続会社、民間テレビからの新税の徴収が考えられるが、具体的動きはない。8億ユーロのうち4.5億ユーロの財源は政府により保証されたが、ル・モンド紙のパトリック・ロジェ記者のように、「4.5億ユーロの後はどうするの」(2009・2・4号)と述べるように、今後の財源措置は不透明だ。サルコジ大統領は商業主義に左右されない質の高い番組制作の実現をカカ掲げている。しかし、反対派は、財源の具体案を示さず、番組の質について云々することは、国家権力の介入を招くと危惧している。




(文中敬称略)
  《終》
2009年4月27日号 映像新聞掲載

中川洋吉・映画評論家