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「統計から見る世界映画情勢」
仏は08年興収が過去最高

 映画は芸術作品であると同時に、文化的商品である。そして、映画を産業面から考察するなら、その経済性、規模の理解が必要とされる。毎年5月、カンヌ映画祭期間中に発表されるCNC(フランス国立映画センター)映画白書を中心に、世界の映画情勢に触れてみる。フランスの詳細な統計をベースに、日本、そして、国家的映画助成制度が整備された韓国、更に、世界一の産業規模を誇るアメリカ映画の統計を比較し、世界映画情勢について述べる。

映画人口

 下記の一覧表、「世界映画情勢2008」を参照し、話を進める。
フランスの人口は日本の約半分でありながら、映画人口は、日本の3倍を記録している。
2008年のフランス映画人口は前年比6.7%増と、ワインで言えば「ボ・ナネ(豊作年)」である。それは2038万人動員の「ようこそ シュテイスへ」が押し上げたもの。この「ようこそ シュテイス」(ダニー・ブーン監督)は歴代動員記録を塗り替えた。因みに、フランス映画の歴代一位はジェラール・ウーリ監督の「大進撃」(66)であり、実に42年振りの記録更新となる。「大進撃」は当時の超大作であったが、「ようこそ シュテイスへ」はノン・スターの平均的予算作品で、予期せぬ大ヒットとなり、映画関係者を驚かせた。一本の大ヒット作が数字押し上げに効果をもたらす好例である。一般的に、大ヒット作に恵まれた年は映画人口増に波及効果をもたらす。

 日本の場合、ここ10年間、映画人口は1億6千万人台で推移している。昨年は、宮崎アニメ「崖の上のポニョ」の大ヒットにもかかわらず、全体で1億6千万人の壁は破られていない。仮に、宮崎アニメのヒットがなければ、数字はもっと下がった筈だ。ここに日本映画の大きな問題点がある。興行資本は映画人口増に対し、何らかの手を打たねばならない。恐らく、各社はそこそこに儲け、「コレデイイノダ」の段階で留まっていると考えられる。

 お隣の韓国は全人口の3倍の観客を動員している。世界最大の市場を持つアメリカは、ほぼ14億人弱とケタ外れの動員力を誇っている。各国の年間入場回数はフランスが、3.06回、韓国は3回、アメリカは4.47回であり、日本は1.26回である。日本では国民が年1回も映画を見なくなる時期の到来もあり得る。映画人口増加は、日本映画界に望まれる緊急の課題である。



興行収入

 劇場窓口からの収入を指す。他に、日本にしかない前売券販売収入が加わる。前売券システムとは、「ぴあ」などのチケット販売箇所以外に、製作・配給パートが映画館に収める上納金であり、これは同パートにとり多大な負担となる。映画館は不採算のリスクを前売券と興行打ち切りによる回避が可能であり、映画を掛けて貰う方がリスクを負うこととなる。このシステム、資金力に乏しい中小製作プロダクションにとり重い負担となる。
 日本はここ10年間、ほぼ2千億円前後の興行収入があり、映画人口同様、大きな発展は見られない。フランスは1481億円と、ほぼ1500億円(1ユーロ:130円換算)とこの10年間の最高記録を残した。韓国は880億円で、日本の約2分の1弱、人口比から見れば大健闘の部類である。
 
 アメリカは9791億円と、1兆円近い数字をあげ、規模の違いが歴然としている。
 平均入場料は日本が1214円と群を抜く高額である。フランスは781円、韓国は589円(約600円)、アメリカは491円(約500円)である。国際的に見て、日本の平均入場料は非常に高い。アメリカは一番低額であり、これを武器に多くの観客を呼び、大きな収入をあげている。日本の映画界は、この高入場料政策に頼っていることが国際的に見て一目瞭然である。我が国の興行資本は、入場料を下げ、もっと多くの観客動員を考えたらどうであろうか。例えば、手始めに、学生500円、シニア700円と大幅に下げてみることも一案だ。これにより、学生、シルバー層の大量動員の可能性が出てくる。ひいては興行収入、2千億円台、入場者数、1億6千万人台の数字の変化も期待できよう。



スクリーン数

 日本映画の最盛期は映画人口、11億人(1958年、昭33)、映画館数7457館(1960年、昭35)を記録している。その後、ずっと減少し、現在に至っている。1960年当時シネコンはなく、映画館数であったが、シネコン登場によりスクリーン数へと数え方が変った。

 日本の場合、映画館数の底は1993年の1734館であり、その後、徐々に上昇へと転じた。それはシネコンの登場によるものであり、シネコンがスクリーン数増加の牽引的存在となった。しかし、往時の7500館のほぼ半分にまでしか回復していない。更に、現在までサイト数(映画館数)5館以下の県、富山、鳥取、島根、徳島、高知、佐賀、宮崎があり、無映画館市町村が全国的にいまだ解消されていない。これは、映画を見る機会を奪うもので、興行資本だけの問題ではなく、地方行政と連動して取り組むべき課題である。映画製作云々と言えども、映画館がなければ話にならない。
 スクリーン数はフランスが5426、韓国が2081、アメリカが3万9476とほぼ4万スクリーンに近い。

 全体の中でシネコンの占める割合は、日本が79.2%、フランス派33.9%、アメリカが74%である。フランスの場合、独立系の個人経営館が地方に多く、シネコンの割合が低いためと考えられる。パリについては、独立系個人経営館はアート系館に多いが、それらは、1サイトを2〜3スクリーンと細分化しているケースが多い。


デジタル上映対策が後れる日本

 今後10年で映画興行はフィルムからデジタルへの移行が予測される。このため、各国はデジタル対策を進めている。デジタル・スクリーン数はフランスが442、日本が94、韓国が188、アメリカが5474である。この分野では電脳王国日本の立ち遅れが目立っている。デジタル対策が叫ばれ、テレビでは実現間近である。しかし、映画産業界は始まったばかりの状態であり、官民併せての映画に対する文化意識の低さを感じさせる。(韓国はシネコン・スクリーン数の統計が発表されていない)。


製作本数と市場占有率

 我が国の場合、映画統計は、大手映画会社の関連組織「日本映画製作者連盟」(以下映連)が集計しているが、実質的担当者は一人と、活動範囲が極めて狭い。従って、興行収入、入場者数、そして、スクリーン数のみの数字となる。フランス、韓国は統計部門だけでも数十人単位であり、集計力に大きな差がある。
 本来、文化としての映画の視点に立てば、当然、文化庁が成すべき作業であり、一業界団体任せでは映連も肩の荷が重い。
 製作本数は以上の理由で、我が国では、公開本数が取り上げられ、正確な製作本数は把握できていないが、一般的には、全体の公開数の大体3分の1がピンク映画と言われている。

 世界的に見て、アメリカが群を抜く製作本数で、日、仏、韓が続いている。
 例年、日本は300本、フランス200本、そして韓国が100本であったが、フランスは興行に勢いがあり、その実勢が数字に反映されている。韓国の場合、年間製作本数は50〜60本であったが、2000年代以降、どんどん増え続け、124本(07)、113本(08)と韓流の勢いで数字を押し上げ、公開本数は393本(08)とほぼ日本と拮抗しており、公開外国映画の300本弱が主たる要因と思われる。
 日本映画は、邦画シェアが40%を超えた2005年から公開本数がにわかに増加し、2006年からは邦画公開本数が洋画を上回る現象を示している。アメリカ映画の停滞と邦画の隆盛が反比例している。



国産映画市場占有%(シェア)

公開本数が急増した韓国
 世界的に見て、国産映画市場占有は、圧倒的にアメリカが優位であった。その潮目が変化し出したのは、フランスでは2006年からアメリカ映画に対し優位を保ち、日本は2006年以降(2007年はアメリカ優位)である。リメイクに頼るハリウッドの衰退が大きな要因と考えられる。但し、圧倒的な市場を誇る映画大国アメリカの巻き返しがいつ来るか、その時期に注目せねばならない。



図表 「2008年の世界映画情勢」 
フランス 日本 韓国 アメリカ
人口(万人) 6,200 1億2,770 4,860 3億480
興行収入 11億3,940万ユーロ
1,481億2200万円
1,948億円 8億8,800万ドル
880億円
97億9,100万ドル
9,791億円
映画入場者 1億8,970万 1億6,050万 1億5,080万
13億6,400万
年間入場回数 3.06
1.26
3
4.47
平均入場料 6.01ユーロ
781円
1,214円
5.89ドル
589円
4.91ドル
491円
スクリーン数 5,426
3,359
2,081
3万9,476
シネコン
スクリーン数
1,838
33.9%
2,659
79.2%
-------
2万9,212
73.9%
デジタル
スクリーン数
442
94
188
5,474
製作本数 240
* 408
(*公開本数)
113
520
国産映画
市場占有%
45.4%
59.5%
42.1%
91.5%

換算、1ユーロ=130円、1ドル=100円、1ウォン=10円
出展、CNC映画白書2008(2009年版)、「フォーカス」(カンヌ映画祭見本市2009)、韓国映画データ2008(KOFIC)、データブック「世界の放送2009」(NHK)、日本映画産業統計2009(映連)

 




(文中敬称略)
  《終》
2009年7月20日号 映像新聞掲載

中川洋吉・映画評論家