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東京新聞「シネマガイド」
「のんちゃんのり弁」

−下町の乗り 味わい深く−

(c)2009「のんちゃんのり弁」
製作委員会

 乗りの良さが光る作品。
舞台は東京スカイツリー近く、墨田区京島。しもた屋が軒を連ねる昔ながらのたたずまい。夕飯のおかずが何でも揃うキラキラ橘商店街、級友、母、そして居酒屋の親父と飾らぬ庶民の意気と他人(ひと)への気遣いが、舞台装置として効いている。
 この仕掛けの中で大暴れするバツ一寸前の専業主婦に小西真奈美。
 小西は自称小説家志望の亭主に愛想を尽かし、京島の実家へ娘ののんちゃんと出戻り。彼女の母にかつての今村昌平組の美女倍賞美津子が扮し、娘とポンポンとやり合う姿に背筋の通った来し方が滲み出る。
 良く言えば女性の自立だが、特技なし、単なる思い切りの良さが身上の直進型が小西の役ドコロ。

 唯一の取柄は、娘のんちゃんのためののり弁である。ただの弁当ではなく、五、六層、しかも実写ではなく図解で見せるアイディアはおトボケだ。
 この弁当が娘の幼稚園で、先生までも巻き込む評判となり、金を取らぬ手はないと持ち上げられ、本人も次第に弁当屋開店の気になる。
 その決め手が岸部一徳扮する居酒屋の親父の作るサバの味噌煮。小西が一口食べ、物を言わず数秒間宙を見据える間(ま)が何ともおかしい。監督緒方明の笑いのセンスが冴える一シーン。
 若者世代に深刻な不況が襲う現代、その処方箋の一端が提示されている。元気印小西の存在、下町の雰囲気の後押し、ここが作品の乗りの良さの大きな要因である。
 最後に、のり弁は、のりを千切ってまぶせば、蓋に付着しない。これは映画から学ぶ知恵だ。




東京新聞
2009年9月25日夕刊掲載

中川洋吉・映画評論家