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「第3回韓国映画ショーケース」

−多用で充実した新作10本上映

 「第3回韓国映画ショーケース」が11月21日(土)から30日(月)まで、有楽町スバル座で開催された。今ショーケースは韓国映画振興委員会(以下KOFIC)の海外プロモーションである。昨年は、12月開催であったが集客が伸びず、今年は、フィルメックス開催期間中の相乗りとなった。上映作品は新作10本、監督の来日もあり大いに盛り上がり、韓国映画のコアなファン層の存在を見せつけた。また、KOFIC側も委員長自ら乗り込み、宣伝にこれ努め、韓国映画のプロモーション活動に熱が入っていた。


「ヒマラヤ〜風がとどまる所〜」

「ヒマラヤ〜風がとどまる所〜」(c)2009 DONGNYUK FILM
 静謐な作品だ。「オールド・ボーイ」のチェ・ミンシクの3年ぶりの主演作。舞台はネパール・ヒマラヤの麓の寒村。四六時中風が吹き荒れる、厳しい自然環境。
主人公は企業をリストラになり、身の回りの品を携え、エレベーターで降りる。彼の姿を見たかつての同僚たちは、彼を避ける。これから起きることを予感させる冒頭シーンだ。男は、弟の経営する工場へ赴くと、ネパール人労働者が事故死し、彼の葬儀に立ち会う。

 物語は、労働者の遺骨を主人公がネパールまで届けるところから始まる。家族と離れ、今や総てを失った男は、スーツケース一つでヒマラヤの麓の寒村へ、高山病と闘いながらやっとの思いで辿り着く。男は終始無言。マッチョなアクション俳優のイメージが強いチェ・ミンシクが一言も言葉を発せず、苦行のような山岳行、これがハマっている。人生に破れた中年男の悲しみ、苦しさが滲み出る。
村に着けば、言葉が全く通ぜず、無言に近い世界。男は労働者の死を切り出せず、ずるずるとその一家に逗留する。人を圧するヒマラヤの景色、寡黙な住民、寒々しさが肌を刺すようだ。最終的にネパール人の死は伝えられ、男は山を降りる。総てを失った男の、無から立ち上がる魂の再生劇で、それは寡黙な村人たちの交流から生まれ、男に生き直す決意を促す。




「グッドモーニング・プレジデント」 軽めでユーモア溢れる作品増加

「グッドモーニング・プレジデント」 (c)2009 CJ Entertainment inc.

 「グッドモーニング・・・」は今年のショーケースのオープニング作品であり、10月の釜山映画祭におけるオープニングも飾った。KOFICは並々ならぬ力瘤を入れる、良質な娯楽作品だ。
韓国、三代の大統領が主人公。ストーリーが拡がりすぎ、バラケル心配をさせるが、ハナシの運びが締まっている。庶民派大統領は、任期満了直前に宝くじで大金を当て、寄付するかどうかで悩みぬく。次の大統領は史上最年少で、イケメンスター、チャン・ドンゴンが扮する。彼の中年のイケメン振り、高感度の高さは韓流スターの中でも際立っている。スターものとしての売りの側面は当然あり、今回、前売券があっという間に完売している。しかし、雲の上の人、大統領の個人生活に焦点を当てた描き方が今までの政治ものとは一味違う。3人目の大統領は宝くじで悩む元大統領の夫人、彼らの娘がドンゴン大統領の思い人と、家族、友人関係でつながっている。

 今作がいい例だが、最近の韓国映画には娯楽作品が充実し、ハナシが面白く、見る者を楽しませる意図がはっきり見える。
若手、中堅監督の台頭と共に、脚本の良い書き手が揃っている。娯楽作品が良いということは、映画界全体の質の高さの証明でもある。




「執行者」 世代交代進み若手の台頭が顕著

「執行者」 (c)2009 Motion Pictures

 死刑執行間題を取り上げた作品。軍事独裁政権から民主化の波に乗り、キム・デジュン大統領が政権に就いた1998年以降、韓国では、死刑判決があっても執行は停止されている。世界的に、一度、執行停止した国の死刑再開はなく、韓国は事実上の廃止国である。しかし、ノ・ムヒョン大統領後の保守党、イ・ミョンバク大統領は死刑の必要性を公言し、執行再開の可能性はある。この波乱含みの死刑制度について、もし再開されたなら、との仮定の立場から同制度を描いている。

 若い警察官が刑務所に配置される。彼の上司のコワモテ刑務官はズル賢い受刑者に付け込ませないために、厳しく臨む。連続殺人事件が起き、世論は死刑を望み、3人の男の処刑が決る。一人は凶悪犯、一人は強盗に入り、騒がれ、気が転倒し3人殺しの死刑囚。根は心優しく、刑務官の一人は改悛の情がある彼に目を掛け、将棋を共にする間柄。刑の執行が決るが、誰もしり込みし、上司のコワモテ男だけが職務遂行のためと志願し、若い男も不承不承任務を引き受ける。
ここで、改心した人間に対する執行の是非、そして、執行者たちの苦しみと、2つの問題が提起される。現在の我が国の厳罰的潮流と応報的な死刑制度と異なる、人道的立場に依拠した死刑が語られる。世界的に死刑廃止国が圧倒的に多いなか、次々と死刑判決を出す日本の死刑制度のあり方と併せて考えさせる作品だ。上司には「悪い男」で、マッチョな暴力団員を演じたチョ・ジェヒョンが扮するが、冷酷に任務遂行を己れの本分とする役ドコロが作品全体を締めている。



「亀、走る」

「亀、走る」(c)2009 CINE2000 AND SHOWBOX MEDIAPLEX, INC.

 今や韓国映画の得意分野の一つとなった刑事もの。法を平気で無視する荒っぽい刑事が犯人を追いかける展開は「チェイサー」(08)と変わらず、主演のキム・ユンソクも同じ。今回は、生活臭漂うコミック風味が効いている。
主人公の刑事は荒っぽい尋問で停職処分となる。その彼、風俗店主から小遣いを巻き上げ、有金は全部賭博に使い、家には一銭も入れない。困った女房は、細々と貸本屋や内職で何とかしのぐ。こんな案配で、彼は女房に全く頭が上らない。賭けに負け、ヤケ酒を呑んで帰宅し、ムラムラと女房に迫る。しかし、彼が触れた下着に穴があいており、急に気持ちがなえるシーン。上手く生活の匂いが伝わり、家計の貧しさが身につまされる。
その後、女房の虎の子の貯金を引き出し、闘牛の賭けでガッポリ儲けるところから刑事ものらしくなる。儲けた大金を若い男に強奪され、取り返すべく後を追い、捕らえようとするが、相手は脱獄犯で武術の達人。刑事は返り討ちを喰う。復讐のため武術道場に入門と情けない。軽く笑わせ、しんみりさせる、ひねりの効いた刑事もの、今年41歳の新進監督作品。この世代の人材の豊かさを感じさせる。



「バンドゥビ」

「バンドゥビ」(c)2009 INDIESTORY Inc.」

 異色の設定に魅力がある。シングルマザーと折り合いの悪い、生意気な女子高生が、ある時、バスで隣席したバングラデシュの移民労働者と知り合う。現在の韓国は、既に大量の移民受入国であることがここで知らされる。文化の違い、移民の存在、この2点を軸にドラマは展開される。タイトルの「バンドゥビ」はバングラデシュ語で友達の意。脱北者が二等国民扱いされたり、3K労働のバングラデシュからの移民が流入する韓国の社会構造が反映され、見応えがある。




「昼間から呑む」

 韓国の映画学徒に絶大な人気を誇るホン・サンス監督風の手触りがある。物事がユルク、だらだらと移ろい、結局、大したことは起らない。そんな作りだ。
失恋した青年を慰める呑み会が盛り上がり、翌日の一泊旅行の話がまとまる。失恋男は待ち合わせ場所へ行くが、他の仲間は二日酔いで現れない。そこで、男は一人で目的地へ向うが、無愛想な民宿の主人、謎めいた若い女と出会う。この若い女は美人局で、男はハメラレル。どうということのないハナシの連続だ。この起伏のなさが、若い世代には受けるらしい。一つの現代的タイプ作品と位置づけたら良い。




「素晴らしい一日」

「素晴らしい一日」(c)2008 Sponge.

 一時代前の韓国映画は、クソリアリズムとカワイソウイズムに満ち、シリアスな作品が主流であった。しかし、監督の世代交代が進み、若手の進出が顕著となり、軽めで、ユーモア溢れる作品がぐっと増えた。
韓国映画市場は若い層の観客が多く、彼らの嗜好に沿う作品群が必要とされたとも解釈できる。
軽めで、若者の心情に通じるのが「素晴らしい一日」である。若い女が元カレに借金の返済を迫り、監視を兼ねて、一日、男に同行するハナシで、男が訪ねる先が、総て若い女性というところが面白い。


終わりに  特筆される人間像の描き方

 大変に作品の揃ったショーケースであった。作品はシリアスもの、ユーモアもの、アクションもの、社会ものと多様である。そして、何よりも特筆すべきは、描かれる人間像が生きているところである。今回の出品監督の年齢は割合若く、これも韓国映画の強みだ。






(文中敬称略)
  《了》
映像新聞 2009年12月28日号掲載

中川洋吉・映画評論家