このサイトからダウンロードできる
PDFデータの閲覧のために必用なAcrobatReaderは以下のリンクより
無償でダウンロードできます。



このサイトからダウンロードできる
PDFデータの閲覧のために必用なAcrobatReaderは以下のリンクより
無償でダウンロードできます。



「FIPA2010報告 (上) 統計的に見て」

−アジア地域での知名度が向上

 「FIPA2010(フィパ−国際テレビ映像フェスティヴァル)」は、1月26日から31日まで、フランス南西部ビアリッツ市で例年通り開催された。テレビ映像の創造性に重きを置き、1986年にカンヌ映画祭監督週間総代表ピエール=アンリ・ドゥロにより創立されたFIPAは今年で23回目を迎えた。本年は1580本の作品が世界72ヶ国よりエントリーされた。そして、本選ノミネートは相変わらず厳しく、日本からは「日本海軍 400時間の証言」第2回『特攻 "やましき沈黙"』」(NHK)と「だから僕は指揮棒を振る」(RKB毎日)が選考された。
 今回は統計を中心にFIPAについて論じたい。


新体制

ピエール=アンリ ドゥロ FIPA前総代表
(c)八玉企画
 昨年、2009年一杯で22年間FIPA総代表として選考を一手に手懸けたピエール=アンリ・ドゥロが引退し、今回、2010年からは体制が一新された。FIPAの年間予算は1億8千万円、そのうち約半分がフランス国立映画センター(CNC)の助成、残りは著作権・プロデューサー団体からの拠出により成り立っている。ドゥロ時代から、中立を守るため、テレビ局からの助成は受けない方針をFIPAはずっと貫いている。しかし、オープニングとクロージングの豪華パーティは公共放送フランス・テレビジョン(FT)が負担しており、これはギリギリの妥協といえよう。

 新会長は、FIPAを支える映画プロデューサー団体、「プロシレップ」からオリヴィエ・ミル、彼の推薦でイタリア人女性テレサ・カビナが総代表に就任した。カビナ総代表は作品選考の責任者で、既にロカルノ、ヴェネチア、ローマ映画祭の選考担当を勤め、その手腕を買われての抜擢。

 事務局長はFIPA創立メンバーのジャン=ミッシェル・オセーユ、彼は監督週間以来のドゥロの盟友である。この彼の続投により運営面の心配はなく、外部から見る限り変化は感じられない。今後、FIPAのスターであり、選考の顔であったドゥロ路線をどのように発展、継承させるかが注目される。
 なお、引退したドゥロは、ぼう大な書籍とCDに囲まれ、音楽、文学三昧の毎日で、時折、講演、そしてセザール賞選考委員を務め、更に、パリ大学で文学を講じている。



世界のテレビ映像フェスティヴァル

FIPA2010 メイン会場カジノ

 ここ数年、筆者は個人的にFIPAの後、パリでCNC・テレビ部門ディレクター、ロラン・コルミエからフランス映画とテレビ局について聞き取り調査を行っている。彼は、毎年FIPAへ顔を出し、作品に直接触れている。この彼から、世界のテレビ映像フェスティヴァルについて、興味深い話を聴いた。彼によれば、FIPAは世界一であり、日本で知名度の高いモンテ・カルロ映像フェスティヴァルより上とのこと。FIPAの大きな特徴は、実際に大型スクリーンでの上映で、本選コンペ作品はビアリッツ市内6ヵ所の会場で一般観客前で行われる。

 普通、テレビ映像フェスティヴァルは、ビジネスの場であり、会場での上映はない。代表例としてフランス、ラ・ロッシェル市で開催されるサニーサイド・ドック映像フェスティヴァルがある。FIPAと同様に、作品上映をする同規模のものとして、カナダ、ヴァンフの映像フェスティヴァルが挙げられる。


上映方法

 FIPAには大型スクリーン上映と並び選抜制見本市FIPATEL(フィパテル)がある。本選コンペ5部門(フィクション、シリーズもの、ドキュメンタリー、ルポルタージュ、音楽・ダンス)からの66作品を含め、全体で470作品がFIPATEL会場内の100台のモニターで視聴できる。主としてヨーロッパのテレビ局買い付け担当者が集り、彼らの見た作品は総て所属、氏名、時間数まで記録され、これがビジネス・コンタクトの基本資料となる。因みに、モニター機器は韓国のサムソン製、現在、フランスではテレビ受像機のマーケット・シェアーは韓国勢が優勢で、フィリップ、トムソンなどのヨーロッパ製は振るわない。日本勢では一社ソニーが気を吐いている。


国別エントリー数

総数1580本の国別本数のベスト・テンは次のようになる。

1) フランス 382本
2) カナダ 138本
3) ベルギー 115本
4) スペイン 107本
5) オランダ 92本
6) イタリア 79本
7) スイス 68本
8) イギリス 58本
9) オーストラリア 48本
10) ハンガリー 41本

以上のようにヨーロッパ勢中心のエントリーである。カナダの場合はフランス語圏を抱えるためである。

アジア勢は左記の通りである。

1) 中国 36本
2) 韓国 25本
3) 日本 18本

他にイランが21本、イラクが4本、インドが4本である。クオリティの高さを誇るイスラエルは32本と意欲的である。
 アジア勢に関しては、例年50本以上エントリーする中国が数を減らしているが、クオリティは非常に高く、絞り込みのエントリーと考えられる。韓国は駐在員が現在空席であり、例年、本数は少なかった。しかし、今年は25本と、同国の映像、映画の韓流ブームを思わす勢いが見られる。日本は例年通りだが、今年は独立プロ作品の健闘が印象に残った。映画大量生産国インドは、FIPAとのパイプが細いためか、相変わらずエントリーは少ない。他に、タイ、カンボジアが1本づつ出品、FIPAの知名度、アジア地域で徐々に上ってきた模様。



部門別エントリー数

 5部門のエントリー数には大きなばらつきがある。これは、テレビ映像といえばドキュメンタリーとする風潮が現在も支配的で止むを得ない現象である。

  エントリー数 選考数
・フィクション部門 150本 9本
・シリーズもの部門 93本 7本
・ドキュメンタリー部門 672本 19本
・ルポルタージュ部門 174本 15本
・音楽・ダンス部門 68本 16本

 以上のように、圧倒的にドキュメンタリー、ルポルタージュ部門への出品が多い。シリーズもの部門はスーパー入れ、翻訳作業に費用が掛かり、日本ではNHK以外難しいが、93本のエントリー数には驚かされる。これは、シリーズものはテレビ放映における人気ソフトで、ビジネスの要請が強いためである。



国別選考作品数

1) フランス 39本
2) ドイツ 13本
3) スイス 9本
4) イタリア 7本
5) オランダ 6本


 フランスは地元だけあり抜群の本数を誇っている。ルポルタージュを含めたドキュメンタリー部門でフランスが圧倒的力量を示すのは、公共テレビ、フランス・テレビジョン(FT)と独仏公共教養テレビ、ARTE(アルテ)の積極的関与が大きい。フランスの場合制作された番組の放映受け皿としての以上2局の存在は極めて重要である。フランス滞在中、宿のテレビチャンネルを回せば、容易にドキュメンタリーを目にする。それ程、放映量が多い。

 アジアからの選考数は、日本は2本、中国が3本、韓国が1本、インドが1本ときわめて厳しい状況だ。クオリティの高さを誇るイスラエルは5本と、大健闘。ドキュメンタリーでは定評のあるBBCを擁するイギリスは、今年は1本と、今まででは考えられない落ち込みだ。アジアからの本数の少なさは、日本に限れば、英語圏文化に組み入れられている我が国でのフランス語の敷居の高さがある。このハードル、日本人にとり相当に高い。更に、日本からのエントリー数の絶対的少なさが問題だ。FIPAはフランスを中心とするヨーロッパ的センスを持つフェスティヴァルであることに相違ない。作品審査員も主としてヨーロッパ系だ。

FIPA09「激流中国 病人大行列-13億人の医療」(c) NHK

 しかし、このハードルの高さを乗り越える手立てとして、NHKの好例がある。勿論、この局の資金力と豊富な人材は無視できないが、ここ10年、毎年複数の作品をエントリーし、最初はFIPATELにやっと入る状況であったが、昨年、ルポルタージュ部門で「激流中国 病人大行列−13億人の医療」が宿願の金賞獲得を果した。NHK,或いは日本のドキュメンタリーのテイストや手法が徐々に浸透し、理解された証しである。日本のドキュメンタリーは作り方の根本発想がヨーロッパとは違う。そこが認められたのである。我が国はアメリカに次ぐテレビ大国であり、低俗番組も氾濫しているが、硬派のドキュメンタリーに関しては決して劣っていない。露出度が少なく、世界的な認知度に欠けるだけなのだ。従って、現在以上にFIPAをはじめとする世界のテレビ映像フェスティヴァルに積極的に出品すれば、認知度の上昇は充分可能と考えられる。






(文中敬称略)
  《続く》
映像新聞 2010年2月22日掲載

中川洋吉・映画評論家