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「ハート・ロッカー」


イラクの混迷 最前線でも


「ハート ロッカー」
 イラク駐留米軍、爆発物処理班に属する若者三人の生死を賭けた行動を、張りつめた緊迫感で二時間強を見せきる、キャスリン・ビグロー監督の力業に息を呑む。
テーマは戦争のヒロイズムとその無意味さに絞られている。
戦争当事国、アメリカから見たイラク戦争を実録風にぐいぐい押す脚本とビグロー監督が肉付ける演出は、戦争否定の普遍性に依拠している。
処理班は、乗用車のトランクに仕掛けられた爆弾を除去したり、爆弾を体に巻きつけて待ちの中に現われた男を救出しようとしたり悪戦苦闘を強いられる。砂漠でテロリストの不意打ちに遭い、基地のそばでは路上でDVDを売るイラクの少年と偶然知り合う・・・。
さまざまなエピソードがリズムと緊迫感をもたらす。その構成は作品の大きな見どころ。「ディア・ハンター」(一九七八年)、「地獄の黙示録」(七九年)、「ハンバーガー・ヒル」(八七年)などは、米国が過去にかかわった戦争を描いた作品であり、米国人自身の精神的崩壊に力点が置かれ、「ハート・ロッカー」もこの範疇に入る。
処理班の若者は精神的に追い詰められる。米軍は事実上、圧倒的装備でイラク人の生殺与奪の力を手中にしているが、一方でイラク戦争は出口が見えず、米軍は引くに引けぬ状況にある。それが綿々と写し出されている。米軍戦死者数はメディアから発信されるが、その何十倍の一般市民の死は報じられない。この作品からは多くの死に目を向ける必要性が、宿題として見る者になげかれられている。二時間十一分。





2010年3月5日
東京新聞夕刊「今週の注目欄」掲載

中川洋吉・映画評論家