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フランス国立映画センター(CNC)
「振興政策の核となる自動助成」
映画産業の基盤を支える

 フランスの映画振興組織CNC(国立映画センター)は、その潤沢な資金力で、様々な助成を行っている。その最大のものが、映画部門に対する自動助成である。民間から拠出された資金を再分配する、一種のリサイクルで、この助成のおかげで、フランス映画の基盤が支えられている。このシステムはCNC独自のもので、CNCを研究し設立されたKOFIC(韓国映画振興委員会)は、非常に整備された振興組織であるが、自動助成は無い。自動助成を中心に、今春、パリのCNC本部で映画部門ディレクター、オリヴィエ・ヴォトリングにシステムの詳細について説明を受けた。本稿はCNCの既稿と重複する部分があるが、同予算の中で重要な位置を占める映画部門自動助成について最新の統計資料に基き構成したものである。

映画部門 自動助成

オリヴィエ・ヴォットリング
CNC映画部門ディレクター
 CNCの自動助成はKOFICにはない。それは全体の資金力の差によっている。2010年のCNC予算は5億4363万ユーロ(邦貨706億7190万円、1ユーロ=130円換算)であり、KOFICは、総予算は61億円と大きな差がある。我が国には国家による映画振興組織は存在せず、当然ながら映画に対する自動助成もない。CNC予算は映画部門と映像(テレビ)部門に二分され、各部門に自動助成と選択助成がある。自動助成は、ヒトコト一言でいうなら、上映される作品の入場者数に対し作品プロデューサーに製作費の一部を還元するものである。CNCの資金は既に本紙でも触れているが、映画入場料の11%(正確には10.7%)、テレビ局の総売上げ(公共テレビも含む)の5.5%、そしてビデオ・DVDの総売上げの2%を原資としている。自動助成とは、読んで字の如く、入場者数に一定係数を掛けたものである。還元を受けたプロデューサーは、それを次回作の製作費に充当する。

 具体的に見ると、映画部門の自動助成は66.3%を占め、残りが選択助成となる。全体予算中、自動助成の占める割合は28.7%、約30%弱と非常に高い。金額は1億5598万ユーロ(邦貨202億5740万円)であり、200億円が映画産業界に還元され、その額の大きさに驚かされる。

 選択助成は、製作・脚本、配給、興行、そして映画普及セクションに対するものである。それぞれに審査委員会があり、そこで配分額が決められる。
 選択助成部門の全体予算は7941万ユーロ(邦貨104億5330万円)と、自動助成の約半分である。この選択部門の中で特に有名なものに新人助成のための製作費前貸し制度(通称アヴァンス)がある。


歴史的経緯

 CNCは第2次世界大戦の翌年に設立された。この早い時期の映画組織の立ち上げ、時の政府の映画に対する関心の高さに映画大国フランスの矜持が垣間見える。
 そして、自動助成は47年に映画産業保護を目的として開始された。勿論、助成額は現在と比べ非常に少なかった。現在の巨額な予算は80年代のテレビ局からの拠出に負うところが大である。前述のアヴァンスは58年に始められた。CNCの監督官庁は、発足当時は工業省である。当時、文化省は未だ存在せず、58年に創立後、CNCは文化省傘下となった。この経緯からわかるように、CNCの設立は産業保護のためのものであった。文化的商品である映画を経済面から支えるのがCNCであり、設立趣旨である映画産業保護の視点は一貫している。


付加価値税 製作者に入場料金の一部を還元

 映画入場料には付加価値税(TSA)が含まれている。例えば、入場料金を100円とするならば、その11%がTSAである。これがCNCへ拠出される。現在の料率は11%だが2006年までは約20の料率があった。これは、映画入場者数による分類であり、2007年から現在の料率一本に改定され、複雑さが解消された。
 TSAは映画業界の自助努力であり、拠出された資金は、映画産業界へ還元される、いわば文化のリサイクル・システムである。このシステムに対し、映画人たちは自分達のお金とする風潮が強い。拠出に関し、英国では宝くじ、韓国では映画入場料金に上乗せしている。我が国の映画産業界も、自身で振興策を考えるのであれば、入場料金に数パーセント上乗せすることを考えても良いのではないだろうか。仮に、1%上乗せすれば20億円近く、世界一高い我が国の入場料金のメリットが出てくる。


ポイント制

 ポイント制とは助成対象へのフランス関与度と考えれば良い。実際の受取りは、製作作品プロデューサーである。
 プロデューサーは一定書式に必要事項を記載し、助成を申請する。その際、一番重要なのがポイント制と入場者数である。入場者数に関しては、CNCが集計し、実数を把握する。CNC関係者によれば、ドンブリ勘定のインチキ数字の捻出は不可能とのこと。特に、入場者数はCNCの集計結果が毎週公表され、過大な数字は、CNCへの拠出金額の増加につながり、インチキ経理はやる意味がない。現在の状況はわからぬが、我が国では、2本立て興行時代、1本の作品の興行収入を他作品に付け替える操作が行われていた。一例として、木下恵介監督作品のアガリを他作品へ付け回し、木下監督が激怒し、この一件が彼の松竹退社へとつながった。

 ポイント制は自国作品であることの確認と、もう一つ、ヨーロッパ作品であることも対象として勘案される。このことは、フランスはヨーロッパ諸国との合作が多いことから来ている。ヨーロッパ作品、そしてフランス作品のポイントにより掛け率が定められ、最終的に助成金額が決定される。ではポイント制とはいかなるものであろうか。簡単にまとめるならば、監督、言語、主演俳優がフランス人、フランス語であるかによりポイントが加算される方式である。そして、80〜100ポイントは係数1.0%と定められる。それ以下であればポイント数が細分化され、係数は当然1.0以下となる。


ポイント計算方式

 ポイント計算には2段階ある。第一段階はヨーロッパ映画認定審査であり、第一のハードルとなる。始めにヨーロッパ作品としての認定、そして第二ハードルとしてフランス作品認定が必要とされる。

ヨーロッパ作品認定審査
 全体のポイントは18で、そのうち14ポイントを満たせばヨーロッパ作品として認定される。

内訳は、

・6ポイント 監督(3ポイント)、脚本家(2)、音楽(1)等
・6ポイント 俳優〔主演(3)、助演(2)、全体の50%がヨーロッパであること(1)〕
・4ポイント 技術スタッフ(撮影、録音、編集)
・2ポイント ポスト・プロダクション(現像ラボ、編集スタジオ、撮影スタジオ)

フランス作品認定審査
 第二ハードルのフランス作品認定審査は全体を100とし係数が決定され、審査ポイントの大筋はヨーロッパ作品認定のそれを拡大したものであり、列挙すれば、製作プロダクションの国籍(10ポイント)、使用言語(20)、監督・脚本家・音楽など(10)、俳優(20)、スタッフ(14)、そのほかのスタッフ〔照明、美術など〕(6)、撮影地・ポスト・プロダクション(20)となる。この事項で、フランス籍であればポイントが付与される。この獲得ポイントにより、ポイント係数が定められている。例えば30ポイントであれば0.3で、70ポイント以上は係数0.73から、80ポイント以上は係数1.0となる。



計算実例  上映作品の入場者数に対して

 ヨーロッパ作品認定審査で14ポイントを獲得した作品が、フランス作品認定審査対象となり、獲得ポイントによる係数が関ってくる。

 映画館上映された作品の計算方法は、

1. 作品の入場者数
2. 平均入場料金(6.01ユーロ〔2008年〕)
3. 映画付加価値税(TSA)(11%)
4. 獲得ポイントによる係数
5. 入場者数による分類(%)
  ・50万人まで  125%
  ・50万人〜500万人まで   110%
  ・500万人以上  50%

 以上の5項目の数字を掛けたものが自動助成金額となる。
 例えば入場者50万人、獲得ポイント80の場合、(1)x(2)x(3)x(4)x(5)の合計は41万3188ユーロ(邦貨5371万4375円)となる。



おわりに

 以上のように、自動助成には、フランス映画産業保護のため、国の文化への強い担い手意識が濃密に働いている。そして、興行的に弱い作品に対する目配りがされ、作家性の強い作品や芸術性の高い作品を進んで保護する制度的な配慮が成されている。この点が非常に重要である。



(文中敬称略)
《了》
映像新聞 2010年4月12日号 掲載
 

中川洋吉・映画評論家