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「2010年を展望する」


 2009年のベスト作品の一本が西川美和監督の「ディア・ドクター」だ。「蛇イチゴ」、「ゆれる」で家族の絆ともろさを描き、そのシナリオの力量と映画的構築力の確かさを見せつけた。彼女の存在は、オトコ社会の日本映画界に風穴をあけるものであろう。才能がありながら世に出る機会に恵まれなかった多くの若手女性監督に「自分でもやれる」と、自信をつけさせる効果がある。女性監督の強みは巷間に流布される女性独特の感性ではなく、物事を多面的に捉えることである。そして、海外で受ける、現在は中堅となった監督たちのような、お仲間内発信的な観念性の否定が期待できる。女性監督の活躍、シナリオも含めて、今年の注目すべき点だ。

 年々、劇場上映されるドキュメンタリーが増えている。昨年は本橋成一監督の「バオバブの記憶」、伊勢真一監督の「風のかたち」と秀作が登場した。以前は興行の対象となり得なかったドキュメンタリーを、入場料を払って見る観客が徐々に出て来た。この現象、格差社会で低所得者層の拡大と無関係ではない。映画の作り手たちの視線が時代や社会へ意識的に向ったからであり、今後、ドキュメンタリー作品の劇場公開は多くなる可能性が大である。

 我が国の映画著作権問題でも政権交代を機に改善を希望する。日本の著作権法では、監督は著作権者でなく、製作資金を出す映画会社が著作権料を独占してきた経緯がある。この問題の解決のため、映画人を政界へ送り込むのも一案だ。突破力のある崔洋一監督や、確固たる映画論を持つ小栗康平監督あたりに、直接、映画・文化行政に携わってもらいたい。


 

中川洋吉・映画評論家