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統計で見る世界映画産業の情勢2010

  毎年5月のカンヌ映画祭期間中にCNC(フランス国立映画センター)から前年の映画統計が正式に発表され、1センチはある映画白書(Bilan)が無料配布される。勿論、一部は年頭に映画業界紙に掲載されるが、数字の詳細と分析はこの白書を待たねばならない。当日はCNC会長、そして、今年は映画畑出身のフレデリック・ミッテラン文化相のスピーチが加わり、多数の映画関係者へ向け、前年度のフランス映画情勢が発表された。又、同映画祭の見本市部門も登録者用に各国の映画情勢を網羅した小冊子“FOCUS 2010”が刊行された。この冊子は一般にも有料で販売されている。これらの統計と日本映画製作者連盟(映連)の資料を基に作成したのが、本リスト“世界映画情勢2010”である。数字に関しては、日本大学芸術学部映画学科学生を対象としており、解り易く円換算で統一している。
  統計では、日本は当然の事として、国家の映画助成制度の範たるフランス、そして、規模は小さいながらも整備された映画助成制度(KOFIC)を持つ韓国をメインとした。
  他に、比較の為、ヨーロッパ諸国、アジアの中国とインド、そして、巨大な米国とEUも掲載した。

映画入場者

 先ず、映画入場者は、日本は微増し、フランスは大幅に数字を伸ばし、この10年来の課題である2億人台を突破した。勢いの或る韓国映画は入場者が減り、2003年〜6年までの黄金時代の停滞傾向が見られる。
  日本、フランスの増加は3D効果で、フランスがことに顕著である。フランスの場合、観客増の年は必ず牽引的な作品の存在があるが、2010年はそのような作品はなく、映画界全体の底上げ現象が見られる。殊に、伝統的に集客率の良いコメディ、ポリシエ(警察ものを含む)の好稼働に拠るものである。そして、大都市を中心とする見放題パス(一ヶ月約2200円)が約10%を占め、観客動員の下支えとなっている。ハリウッド製3Dの映写用メガネ代を上乗せし、興行収入増加に貢献している。
  米、EUの入場者数と比べると、アメリカが13億4千万人、EU全体が10億人弱と、アメリカが群を抜いている。EU諸国が束になってもアメリカに及ばない。この映画人口がアメリカ映画の隆盛の因である。国内興行で製作費をカバーし、海外で利益を確保する映画構造の確立がうかがえる。


興行収入

 興行収入は、日仏韓ともに健闘している。日本の2208億円はアメリカに次ぎ、フランスも1500億円と数字を上げている。韓国の837.2億円も人口比から見て好稼動といえる。この数字、ヨーロッパでは、仏、英、独、伊に次ぐものである。
  ここで重要なのは、平均入場料との関連である。世界的に見て、4桁は日本の1266円であり、世界諸国は総て3桁である。ここに、日本映画のゆがみが見える。世界第2位の興行収入を誇る日本だが、これは日本映画が高額の入場料金により成り立っていることである。例えば、学生料金が1500円の設定はベラ棒といわざるを得ない。若い層を取り戻す為には、国際標準である3桁の入場料金の設定が望まれる。低料金で映画入場者増加を考えても良いと思う。ここ数年、入場者が1億6〜7千万人止まりであることは、世界一の高入場料金にあると考えられる。
  シネコンに関しては、日仏はほぼ上限に達しており、大幅な増加は見込まれない。映画の健康度のバロメーターである、国産映画市場占有率(%)を見れば、世界的に見て30%を中心に考えたら良い。丁度、フランスの占有率であり、ヨーロッパは軒並みそれ以下である。今までは50%と好調を維持してきた韓国映画界は、占有率は46.5%と前年比2.3%減である。国内の動員数の3分の1はソウル中心であり、この首都の観客減がマイナス要因となっている。
  日本も35%前後で推移してきたが、東宝中心の共同製作委員会方式の独走と彼らの内向き志向により、特にアート系(主としてヨーロッパ)作品を若者が見なくなり、結果として邦画が50%を越える状況となった。  フランスは30%台で、国家の映画助成組織CNCの助成が効き、年間700億円の予算が映画産業界へ還元されている。
  アメリカは非常に特殊な市場で、国産映画の占有率が92%を占め、異常な高さを示している。これは、アメリカ人は自国作品しか見ない国民であり、他国の映画作品の浸透が非常に困難な特質を持っている。

図表 「世界映画情勢 2010」 
人口
(万人)
映画
入場者
(万人)
興行収入
(億円)
年間入場回数 平均入場料
(円)
スクリーン数 シネコン
スクリーン(%)
デジタル
スクリーン数
製作本数 国産映画市場占有率
日本 1億2760 1億7440 2208 1.4 1266 3412 81% 983 408
(*)
53.6%
フラ
ンス
6500 2億0633 1500.5 3.28 727 5478 58.5% 1921 261 33.8%
韓国 5050 1億4680 837.2 2.92 540 2003
-
1221 152 46.5%
英国 6220 1億6920 1136.5 2.8 722 3741
-
1408 119 22.6%
ドイツ 8180 1億2660 1059 1.6 836 4699
-
1248 118
(*)
16.8%
イタ
リア
6020 1億2340 916.8 2 743 3217
-
899 141 29.3%
スペ
イン
4600 1億0160 761.6
2.2 750 4080
-
707 201 12.7%
ロシア 1億4040 1億6550 848
-
510 2430
-
941 69
(*)
14.5%
中国 13億5410
2億6380
1200.8
-
274.4 6200
-
3150 526 56.3%
インド 12億1450
29億9180
1084.4
2.42 40.8 10070
(2009)
-
279 1288 89%
アメ
リカ
3億1760 13億4000 8480 4.1 600 39547 79% 15774 644 92%
EU 4億9000
9億8000
7417.5
1.9 767 29817
-
8682 1203 31%
(**)

(*) 公開数 (**)ヨーロッパ映画公開数
換算レート(2011年7月15日現在)
1ユーロ =115円、1$=80円

出典:CNC Bilan 2011
Cannes Festival FOCUS 2011
映連

 




  《了》


中川洋吉・映画評論家