「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2011」
目を引いた日本作品の充実 海外は中国、トルコ作品に秀作 |
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「今年のSKIPシティ国際D−シネマ映画祭2011」は10月8日(土)〜16日(日)まで川口市SKIPシティ会場で開催された。デジタル映画だけに的を絞った映画祭であり、埼玉県、並びに川口市が助成し、川口市を映像拠点とすべき意図の許、創設された。最初は手探り状態であり、後発の国際映画祭として多くのハンデを背負ってきた。しかし、今や、地元に定着し、世界各国から多くの作品の応募がみられるようになった。
今年の応募状況は、世界81か国から494作品が揃い、そのうちコンペは海外作品は9篇、日本作品3篇と、バランスの良い選考であった。最優秀作品にはトロフィーと賞金150万円が与えられる。
今回は、作品の質が非常に高く、毎年添え物の感があった日本作品の充実が目を引いた。
作品応募条件は、デジタル作品、長篇製作3本以下、70分以上で、必然的に若手作品が集まる。また、賞金は少額であるが、次回の製作資金の一部となり、一例として、今回のオープニング作品「昔々、アナトリアで」のトルコのヌーリ・ビルゲ・ジェイラン監督が挙げられる。彼は、2007年の「うつろいの季節(とき)」で最高賞を獲得、それを次回作の一部に充て、SKIPシティに感謝した経緯がある。
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「26歳、幸せの道」
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中国作品「26歳、幸せの道」は今回のベスト3に入る作品。中国作品の大きな特徴として、扱うテーマの普遍性がある。
作品の作りとしては非常にオーソドックスだ。北京の娘、田舎の父(風景からして、海南島のようだ)、そして、父のレンガ工場。父を助けるのが、子供の頃彼に、引き取られた孤児。娘と孤児は大人になるまで兄妹のように育てられる。そして、悪人が1人も登場しない。この設定がクセモノなのだ。善人だけではハナシが弾まず、作り手は恋愛や争いを入れ勝ちだが、平面構成だけで押す力、難しい演出だ。その困難さをカバーするのが、南国特有の原色の世界だ。赤い大地、しゅろの木、そして、レンガ工場の赤、火の色、そこに人間の汗が加わり、生き様が鮮明になる。久しぶりに帰郷した娘は、何か言いたげだが、切り出せない。父も同じこと。父は娘の誕生祝いに名入りのレンガを焼く。
たった1個のレンガが綺麗な紙に包まれ、部屋の隅に積まれたまま、父のせめての娘への気持であるが、娘は素直に感謝の気持ちを表せない。やがて彼女は北京へ戻る。そこへ、兄妹同然の工場の青年が父の死を伝えに来る。
ハナシはこれだけだが、誰の身にも起こり得る人生の一コマが淡々と描かれる。そして、思いが深い。中国人作家の実力を否応なく見せつけられる。
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「クロッシング」 (c) Arti Productions
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オープニング作品「昔々、アナトリアで」以外の目を引くトルコ作品が登場した。ここ数年、世界的に家族をテーマとする作品が増え、人間の内省面に迫っている。
今回のコンペ部門の「クロッシング」、話が中々凝っている。存在しない家族の絆に何とかすがろうとする発想が面白い。
ラストで意外な事実が明らかになる。ここにタイトルの「クロッシング」の意味が込められている。舞台は会計事務所、主人公は実直なベテラン経理マン。その彼のビュローに若い女性社員が加わる。男は午後4時になると、嬉しそうに電話を取る。幼い娘からだ。一見、何の変哲もない日常だが、極端に付き合いを嫌う男を見て、若い女は不思議に思い、彼のことを調べは始めると、意外な事実が判明する。男は1人暮らしで家族はおらず、事務所と会社を往復する毎日。
一方、彼女も、夫と別れ幼い娘を育てている。そこへ、前夫が復縁を迫り、女性を悩ます。一体、このハナシどのように結末をつけるかが、見る側の興味の焦点。大家、主人公の男性と女性、会社の使い込みをする同僚と、皆、普通の生活が壊れかけている。最後に、1人暮らしの男性のその理由が判明し、それには、若い女性が深く関っていたのであった。人生のひだを感じさせる。ウダツの上がらぬ中年男の不器用な立居振舞い、演じる役者の年季の入った上手さがある。地味ながら見るべき1本。
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「ある母の復讐」
(c)REVENGE OF THE FACTORY WOMAN
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台湾作品「ある母の復讐」は、発想の見事さが映像化されている。
主人公のカップルは、工場勤め、女性は、工場長の令嬢と学友同士で親しい。何事につけ派手な令嬢は、四六時中現場に現れ、親友と婚約中の男性を誘惑し、彼は令嬢の許へと走る。
ここまでなら、平凡な不倫メロドラマであるが、その後のハナシの運びが凄い。最後の話し合いで、男性を奪われた婚約者はすでに身ごもり、令嬢のほうも子供の誕生を待つ身であった。今や、シングルマザーとなった元の婚約者は、話し合いの席上で、互いの子供を交換し養育の仰天提案をする。体面を気にする令嬢の父はシブシブ納得。そして、2人の子供は母の愛情を受け、良い子に育ち、20年後に再会。実母の入れ代り劇。胸にずしんとこたえる描き込み。それぞれの母が、優しく子供を育てるあたり、台湾作品のほんわかとした味わいが伝わり、シナリオの見事なアイディアが光る。
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「荒野の彼方へ」
(c) NEED PRODUCTIONS
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「荒野の彼方へ」(ベルギー・ポーランド)は、第二次世界大戦中のソ連のヨーロッパ侵攻が背景にある。未だにこの時代がテーマになること自体、問題の歴史的根深さを感じさせる。ある一家がソ連軍により、幼児共々、中央アジアの強制収容所へと送られる。厳しい労働、乏しい食糧に女子供たちの体力は限界に近づく。その時、主人公の女性の乳児が発熱し、薬を求め隣村へ行かねばならず、彼女は所長に願い出るが、逆に体を要求される。
しばらくして、待望の許可が別の管理者の計らいで出、草原を馬車を馳って薬探しの旅に出る。やっと薬を手に入れたが、時既に遅く、乳児は死亡。絶望的状況の中、人がいかに生き抜くか、その強さの描き方で作品の資質が決まる。作り手の強い意志が感じられる。
若手監督が等身大のテーマを描く
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「SPINNING KITE」
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映画祭に出される日本映画のひ弱さには目を覆うものがある。しかし、当映画祭の3本の若手作品には見るべきものがある。
「SPINNING KITE」(凧揚げの意)どのような理由で横文字タイトルにしたのかわからない。
物語は、若き日のフェデリコ・フェリーニ監督の傑作「青春群像」(53)に似た趣きがある。舞台は東京湾、海ボタルの先、木更津。都会でもなく、田舎でもない場所設定は作り手の狙いのようだ。主人公4人はパンクバンド活動に明け暮れている。1人、2人と自らの将来に不安を持ち、仲間がバンドを去る。何とか1人で頑張る少年の先行きも不安だらけ。そして、4人の中の1人がメジャーデビューに成功、4人組は空中分解。青春の希望と、確たる当てのない将来、閉塞的な日常と、彼らの不安が伝わる。また、誰もが一度は体験した思いが、少々粗っぽく描かれるが共感がもてる。若手監督が観念性を離れ、やっと等身大の自分たちの青春を描けるようになって来たことを感じさせる。
「チルドレン」は立大生の卒業製作々品。学生映画のレベルの向上を今更ながら思わす作品。ハナシの出来が良い。中心は2人の男女の高校生、現在の高校生、ひいては若者、そして、両親の世代の在り様が興味深い。現実の生活の一部が確かに切り取られている。
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「DON'T STOP」
(c) DONTSTOPMOVIE
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もう1本の日本映画は、コンペでは珍しい長篇ドキュメンタリー「DON'T
STOP」。暴走族上がりらしき主人公は事故で車椅子生活。彼の夢は、アメリカ大陸を駆け抜けること。それを家族、友人がサポートし、やり遂げ納得し、他人への感謝と、主人公の内面の変化がきっちりと押えられている。
この3本の日本映画、作り手の確たる意志が見える側に伝わる。今回の収穫の3本。
●入賞作品
最優秀作品賞 |
「キニアルワンダ」(2011年/ルワンダ、アメリカ/100分)
監督:アルリック・ブラウン |
監督賞 |
「荒野の彼方へ」(2010年/ベルギー、ポーランド/83分)
監督:ヴァンニャ・ダルカンタラ |
脚本賞 |
「チャンス」(2010年/コロンビア、パナマ/90分)
監督:アブネル・べナイム |
審査員特別賞 |
「シンプル・シモン」(2010年/スウェーデン/83分)
監督:アンドレアス・エーマン |
SKIPシティワード |
「DON'T STOP !」(2011年/日本/109分)
監督:小橋賢児 |
(文中敬称略)
《了》
映像新聞 2011年10月17日掲載号
中川洋吉・映画評論家
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