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「マサラムービー」が集中上映
インドで大ヒットの4作品
定着したファンの拡大狙う

 インド映画、通称マサラムービーが4−5月に集中的に上映される。単館上映ではあるものの、ミニ・フェスティヴァルのようだ。最初に見た時はその娯楽色の強さ、ギンギラギンに唖然とさせられたが、今回もそのパワーに圧倒されそうだ。マサラムービーとは、インド映画の総称として使われるが、本来の意味はカレーなどでお馴染みの料理用スパイスである。製作の地はムンバイ(旧ボンベイ)であり、ハリウッドの向こうを張りボリウッドの呼び方が定着した。


初期のボリウッド作品

 1990年代に日本でもボリウッド作品が公開され、その徹底した異次元的楽しさに驚かされた。上映時間は3時間、甘いラブロマンス、アクション、そして、美男、美女による華麗な歌と踊り、実際に作品を目の当たりにして、そのインパクトはただのノリの良さではなかった。最初の頃のマサラムービーでは、主人公の美男、美女中心の群舞を伴った歌と踊りは、筋とは関係なく、突然挿入される感じであった。
主演の男性は、アクション万能、そして、歌も踊りもよしのスーパースター、女性は、この上もない美人で、歌は勿論、踊り上手であることが共通していた。しかも美男、美女はやや太目の傾向があった。当時のインド社会、格差が大きく、金持ちは太目、貧乏人は痩せ気味とされ、太目は豊かさの象徴であった。踊りの女性陣は決まって薄物を身にまとい、セクシー度は際立っていた。太目の主演俳優、セクシーな女性の踊りや衣装は、すべて庶民の夢の反映であった。日本でのマサラムービーが注目されたのは、98年の「ムトゥ 踊るマハラジャ」とされている。



マサラムービーの定着


 今回公開される4本セットになる「ボリウッド 4 ザッツエンターテインメント」は、最近の作品であり、インド本国で爆発的人気を博したヒット作だ。
日本に登場した、今から15年くらい前は、正直なところ多くの人がマサラムービーに面喰らい、一種のキワモノ扱いだった。しかし、アジア映画に対する関心が高まり、マサラムービーもアジア映画の一角を占めるようになった。今や、インド映画研究家がおり、確固たるマサラムービー・ファンが存在している。
今回の「ボリウッド 4」は定着したファンの拡大を狙ったものだ。

今様のマサラムービー



 現代のマサラムービーは、主役の美男、美女が、太目から、アメリカ映画で見られる、筋肉質のスタイルに変わってきている。同様なことは、ミュージカルシーンでの女性ダンサーにも言える。金持ちは太目のイメージがインド社会の中でも変わりつつあるようだ。また、上映時間だが、以前は3時間超が普通であったが、今では2時間台と短縮されている。これも、インド社会の変化が影響している。インド人の日常生活が忙しくなり、3時間も映画でつぶせないことによるものらしい。社会環境が次第に変わってきているのは事実である。



インド映画情勢


 人口12億1100万人のインドの映画力は、人口分だけ強力である。
映画人口は27億600万人と世界最大であり、国民1人当りの平均入場回数は2.2回、平均入場料は世界一安く、約40円である。製作本数は世界一で、年間1274本である。因みに、我が国の映画人口は1億4360万人、平均入場料は世界一高く、1252円となっている(統計はカンヌ映画祭見本市編「FOCUS 2011」による)。
この巨大市場のインドでは、一般大衆向けの娯楽作品が主流であり、マサラムービーを生む大きな原動力となっている。この種の映画では、ナヴァ・ラサと呼ばれる9つの感情(恋、笑い、悲しみ、怒り、勇猛さ、恐怖、憎悪、驚き、不安)がふんだんに盛り込まれ、大衆の気持ちを代弁している。(「ボリウッド 4」のプレスシートより引用)インドの映画における好みは現代化したとはいえ、基本的には「見て楽しく」の傾向が一貫しており、上映時間が3時間近いこともうなずける。



歴代興収ナンバーワン


「きっと、うまくいく」
(c)Vinod Chopra Films Pvt Ltd 2009. All rights reserved

 「きっと、うまくいく」(09年/170分)は、インド映画歴代興行成績ナンバーワンを記録し、2010年インドアカデミー賞、史上最多16部門独占の大記録を樹立した。
3大カーンの1人、アミール・カーン主演の学園騒動とその後を描く作品。美女には、インドで女優として最高のギャラを誇るカリーナ・カプール。
インドも、日本、韓国同様学歴社会であり、名門校の落ちこぼれ3人組が鬼学長と渡り合う学園もの。その内の1人が大物になっているラストのオチも楽しい、現代版「三バカ大将」だ。美女役には同じ大学の医学生役にカリーナ・カプールが扮する。

壮絶なアクション巨篇


「タイガー 伝説のスパイ」
(c)2012 YASH RAJ FILMS.PVT.LTD.

 「タイガー 伝説のスパイ」(12年/132分)は、2012年のナンバーワンヒット作であり、歴代興行収第2位を記録したヒット作だ。
主役のサルマン・カーンの「007」張りのアクションは、ハリウッドものに引けを取らない出来で、とにかく見せる。その彼がインド諜報機関「RAW」のスパイ、お相手の美女にはカトリーナ・カイフが扮し、敵国パキスタンの「ISI」のスパイという役柄。舞台はインド、ロンドン、ダブリン、イスタンブール、ハバナと目を楽しませる風景。2人のスパイの対決と恋と冒険、サルマン・カーンの超人的ヒーロー振りが楽しめる。


海外ロケによる景色


「闇の帝王DON」

 「闇の帝王DON−ベルリン強奪作戦」(11年/148分)は、3大カーンの1人でスーパースター、シャー・ルク・カーン主演作品。ボリウッドものに欠かせない要素として、本国インド以外に、世界各地の海外ロケによる景色がある。ここも、「007」張りで、それぞれの国の風景が目を楽しませる。お約束の美女には、2000年度のミス・ワールドのプリヤンカー・チョプラがインターポールの女性捜査官に扮している。主演のシャー・ルク・カーンは、麻薬ビジネスを牛耳る闇社会の帝王"DON"で、その彼にヨーロッパの犯罪組織から抹殺命令が発せられる。身の危険を感じた彼は、自ら刑務所入りし、そこで、次なる犯罪、ベルリン市の銀行強盗計画のための仲間をリクルートしてしまう。このストーリーのアイディアが卓越している。後半は、金庫強奪が後一歩のところまで上首尾に運ぶが、最後に一波乱。絶体絶命の危機をどのように乗り越えるか、ここが見ドコロである。ストーリーの展開、激しいアクション、総てが一級品であり、極めて質の高い娯楽作品に仕上がっている。


大河ラブロマンス


「命ある限り」
(c)2012 YASH RAJ FILMS.PVT.LTD.

 「命ある限り」(12年/175分)は大河ラブロマンス。主演はシャー・ルク・カーン、美女には「タイガー 伝説のスパイ」のカトリーナ・カイフである。設定がアクションではなく、メロドラマ仕立てで、いわゆる婦女子の紅涙をしぼる作りとなっている。
男と女の出会いはロンドン、男はストリート・ミュージシャン、女は裕福な家庭の娘。2人は恋に陥るが、彼女には既に婚約者がいるという、定番化したシチュエーションだ。このマンネリ的テーマを臆面もなく押しまくり、見せるあたりがボリウッド映画の凄さなのだ。別れた筈の2人が最終的に再び結びつくが、別れた間に、もう1人の美女が交ざり込むハナシの運びが楽しい。


偉大なるマンネリズムと娯楽性


 「ボリウッド 4」では、徹底した娯楽作品が選ばれている。ストーリー自体は同じであるが、むしろ、この同じさ加減が偉大なるマンネリズムとして、観客に受け入れられている。観客は安心して、美男、美女が繰り広げる世界に自らの夢を投影している。とにかく楽しくなければボリウッド映画でないことを再確認した。




(文中敬称略)


《了》


【上映予定】

「タイガー伝説のスパイ」、「命ある限り」、「闇の帝王DON」
  4月20日〜5月17日 シネマート新宿
  5月4日〜5月17日  シネマート心斎橋

「きっと、うまくいく」
  5月18日から シネマート新宿、シネマート心斎橋


映像新聞2013年4月22日掲載号より



中川洋吉・映画評論家