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「第67回カンヌ映画祭」(2014)
若手の台頭、社会問題へのまなざし

「2つ目の窓」

 第67回カンヌ映画祭は、5月24日(土)、トルコ作品「ウィンター・スリープ」のパルムドール授賞で閉幕した。今年の作品は,粒揃いであった。日本からは河瀬直美監督の「2つ目の窓」が出品され、同監督の「次はパルムドール獲得」との発言で話題となった。しかし、結果は無冠、強気の彼女、表彰式後の囲み取材では「悔しい」の一言。

観客を捉えた自然と死生観

「ウィンター・スリープ」

  コンペ前半上映作品群の中では一押しで、ルモンド紙、地元のニース・マタン紙はパルムドール有力候補と、高く評価した。作品の舞台、奄美大島の自然とその脅威、島の独自の民俗信仰、死生観が多くの観客を捉え、公式上映後のスタンディングオベーションは12分続き、昨年の「そして、父になる」に勝るとも劣らなかった。ただ、河瀬作品の致命的弱点である脚本のテーマの収斂が弱かった点をジェーン・カンピオン審査員長達は評価しなかったのかも知れない。
パルムドールの「ウィンター・スリープ」(ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督)は、チェホフの3編の小説から想を得た3時間16分に及ぶ長尺もので、物語の進行と併せ、トルコ・アナトリア地方の美しい景色が息をのむほど素晴らしい。舞台は同地方の人里離れた一軒のホテル、主人公は現役を引退した元役者。そこへ、様々な人が集い、多くの会話が交わされる。それらは人生であったり、人間関係であったりと、多種多様な話題である。
トルコ映画の最高賞受賞は「路」(82)(ユルマズ・ギュネイ監督)以来の快挙である。
ジェイラン監督はカンヌでは知られた存在で、既に審査員賞を2度、監督賞を1度獲得し、いずれは最高賞と見られた逸材である。


長老への敬意 新鋭への激励

「マミー」(c)Shayne Laverdire

 今映画祭を象徴する授賞は、パルムドール候補と目された「マミー」のカナダ出身の若干25歳のグザビエ・ドラン監督と,ヌーベル・ヴァーグ開祖で映画界の変革者として聞こえる、今年83歳のジャン=リュック・ゴダール監督(スイス)(「言語よさらば」)の2人に対する審査員賞の同時授賞である。最長老ゴダールに対する敬意と若手への激励を込めたドランへの表彰であり、ここに、新しい世代の発見の意図が明らかに読み取れる。
昨年は欧州全体の経済的危機で、全体的に不況疲れが見られ、触れられたくない心情があった。しかし、今年は様相が一変した。社会問題一筋のケン・ローチ監督は、戦前のアイルランド共産党の指導者に光を当てた「ジミーズ・ホール」、そのほかにパルムドールの声が高かったダルデンヌ兄弟監督、マリオン・コティアール主演の「2日と1夜」は、現在の不況時にリストラの危機にさらされた女性が、週末に必死にリストラ反対の票を入れる事を働きかける物語である。 権利意識の強いフランスの労働者の連帯が強調されている。

「トンブクトゥ」

パルムドール候補の1つにあげられたモーリタニアからの出品作「トンブクトゥ」はアフリカにおけるイスラム原理主義者の武力行使を冷静に見つめる見応えのある一作だ。

 






(文中敬称略)

《了》


「赤旗」2014年6月3日掲載号より転載

 




中川洋吉・映画評論家