「第67回カンヌ映画祭」@
最高賞(パルムドール)獲得の女性監督が審査委員長
正式上映作品は57本選考
|
|
今年の「カンヌ映画祭」は67回目を迎え、5月14日(水)から25日(日)まで開催された。例年最終日に行われる表彰式は、1日前の24日(土)に早められた。これは、極右が大勝利した欧州議会選挙の投票日と重なることを避けるためであった。
|
カンヌ映画祭会場赤じゅうたん
(C)八玉企画 |
今年のカンヌの気候は、例年より平均気温が5度低いといわれ、快晴でも突然雨が降り、傘の携帯は必須であった。夜は若干冷涼で、例年ならテラスでの夜の食事は、室内を選ぶといった案配であり、この不安定な気候は、昨年同様だ。パリは更に冷涼で、冬物のコートを羽織る人も珍しくなかった。フランスは明らかに気候が変化してきている。
映画祭の人の出は相変わらずで、朝の8時半のプレス上映の開場は長い間8時で、自分の好みの席を確保したいジャーナリストたちが殺到する。それが、8時10分前、今年は8時20分前と年々早まっている。これは、4千人といわれるジャーナリストに、IT系が加わったためと思われる。事務局の方針として、ジャーナリストは4千人までと度々聞いているが、とっくにこの数は越えたとしか考えられない。
当地の物価高は相変わらずで、小さなホテルも会期一杯、12日間の長期料金が常態化し、4〜5日滞在のスペイン、イタリアからの関係者の中には、カンヌから遠い町で宿を見つけ、毎朝、車出勤となるが、カンヌ市内中心部の駐車場を見つけるのに苦労している。色々と不便もあるこの映画祭だが、この勢いはしばらく続きそうだ。
|
ジェーン・カンピオン審査委員長
(C)八玉企画 |
例年20本前後選考される公式上映作品(以下コンペ作品)数は、18本と少しばかり少なかった。しかし、コンペ部門以外に併行週間として「ある視点」部門があり、コンペ部門と補完関係にある。これ以外に正式上映作品が数多くあり、わかり難い、公式上映作品の中で、オープニングとクロージングはノン・コンペである。ほかに、「ノン・コンペ・スクリーニング」と銘打つ上映が2本あり、そのうちの1本はカトリーヌ・ドヌーヴ主演の「愛しすぎた男」で、映画祭はフランスの看板女優(1943年生)をレッドカーペットに呼ぶための選考とも勘ぐれる。さらに、「特別上映」と呼ぶ一群の作品があり、8本を数え、その中には中国の誇る大監督チャン・イーモ、コン・リー主演の「カミング・ホーム」、そして、今月27日から開催される「フランス映画祭東京」に出品されるトニー・ガトリフ監督の「ジェロニモ」などがある。更に厄介なのは、「深夜上映」が3本、その中に、韓国映画「ザ・ターゲット」が選ばれている。おまけに、フランスの代表的日刊紙ル・モンドの70周年を記念する「ル・モンドの人々」が1本加わる。「ある視点」部門と併せ、正式上映作品として57本が選ばれた。
今や世界一であるカンヌ映画祭、世界の監督やプロデューサーはこの映画祭に選ばれることを熱望するのは当然である。毎年4月中旬までに正式選考は決定し、記者発表される。しかし、直前まで、コンペかほかの正式選考かは明かされず、出品者はイライラしながら結果発表を待つ。これは、主として、監督週間に対抗するための手法で、老獪そのものだ。しかも、事前の正式選考決定の報は、口外が禁じられ、もし漏らせば、選考そのものの取り消しもありうると、手が込んでいる。
今年のコンペ作品の選考結果を眺めれば、既に「ロゼッタ」(99)と「ある子供」(05)のダルデンヌ兄弟監督、「麦の穂をゆらす風」(06)のケン・ローチ監督、「秘密と嘘」(96)のマイク・リー監督などのパルムドール獲得監督が名を連ねている。以前は、内規で、一度パルムドールを得た監督は対象外とされたが、この内規が外された結果、大監督の回数無制限登場が可能となった。3監督作品、レベルは高く見応えは充分であったが、ほかの有能な監督たちに道を開く意味で、内規を元に戻すことを考えた方が良い。
"カンヌ・ファミリー"中心の傾向
カンヌ映画祭で一度受賞した監督作品の選考が多いのが最近の傾向だ。今回では、その代表格はパルムドールに輝いたトルコのヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督である。彼は既にコンペ部門で3回受賞し、今回で4度目である。日本から「2つ目の窓」の河瀬直美監督も既に2度受賞し、今回は3度目の狙いであった。ほかに、ジャン=リュック・ゴダール監督、カナダのデビッド・クロネンバーグ監督、フランスのミッシェル・ハザナビシウス監督、オリヴィエ・アサイアス監督、ベルトラン・ボネロ監督と、既にカンヌ出品歴を誇る監督たちが実に多い。このように、カンヌ・ファミリーを中心に選考されているフシがある。ヴェネチア、ベルリンでも、このような傾向があるそうだ。
今年の審査員長は、ニュージーランドの女性監督ジェーン・カンピオンである。女性で唯一パルムドール受賞者(「ピアニスト」〈93〉)であり、女性5人、男性4人の構成。女性、特に女優審査員の多い時は、あまり、ひねりを利かさず、分かり易い作品の受賞が多いとの俗説がある。その結果については、次号で述べる。ジャ・ジャンクー監督は、昨年「罪の手ざわり」を出品したが、審査員であった河瀬監督は是枝裕和監督の「そして、父になる」に票を入れず、ジャ監督に一票を投じた経緯があり、今年はこの彼の恩返しがあるかを注目するうがった見方があった。
カンピオン委員長は、審査員の会期中のインタヴュー禁止令を出したが、これは、数多くある申し込みを断る絶好の口実と評判が良い。彼女は、唯一女性パルムドール受賞者で、女権拡大について質問が及び、「お菓子の大きな部分を男性が持って行くのが現実である」と指摘し、男性優位社会の存在は認め、瓶をラッパ飲みにするところもあり、かなりの闘う人との印象を受けた。審査に関しては「特定の作品に偏らず臨む」と述べた。
パルムドール
|
「ウィンター・スリープ」(ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督、トルコ) |
グランプリ
(第2席) |
「ワンダース」(アリーチェ・ロルバケル監督、伊) |
監督賞 |
ベネット・ミラー監督(「フォックスキャッチャー」、米) |
審査員賞 |
「マミー」(グザビエ・ドラン監督、カナダ)
「言語よさらば」(ジャン=リュック・ゴダール監督、スイス) |
男優賞 |
テイモシー・スポール(「ミスター・ターナー」、英) |
女優賞 |
ジュリアン・ムーア(「マップス・トゥ・ザ・スターズ」米) |
脚本賞 |
アンドレイ・ズビャギンツェフ、オレグ・ネギン(「リバイアサン」 |
審査委員長 |
ジェーン・カンピオン(ニュージーランド、映画監督) |
審査員 |
キャロル・ブーケ(仏、女優)
レイラ・ハタミ(イラン、女優)
チョン・ドヨン(韓国、女優)
ソフィア・コッポラ(米、映画監督)
ウィレアム・ダフォ(米、男優)
ガエル・ガルシア・ベルナル(メキシコ、男優・映画監督)
ジャ・ジャンクー(中国、映画監督)
ニコラス・ウィンディング・レフン(デンマーク、映画監督) |
(文中敬称略)
《続く》
映像新聞2014年6月9日掲載号より転載
中川洋吉・映画評論家
|