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「第68回カンヌ映画祭」
移民・ナチ追求・失業…社会性豊か

 第68回カンヌ映画祭は5月24日(日)、12日間の幕を閉じた。 
今年の審査委員長はコーエン兄弟(米国)で、1999年に快作「バートンフィンク」でパルムドールを獲得している。ひねりの効いた作風で知られる彼らが、どのような判断を下すかに興味がもたれた。

欧州をなやます問題とりあげる

パルムドール受賞のオディアール監督
  (C)八玉企画

  受賞結果は、パルムドール(第1席)にフランスのジャック・オディアール監督作品「ディーパン」、主演男優賞にヴァンサン・ランドン(「マーケットの法則」)、主演女優賞にエマニュエル・ベルコ(「私の王様」)、そして、名誉パルムドールに、女性監督の大御所アニエス・ヴァルダが選ばれ、フランス勢が4冠を占めた。
  パルムドールのオディアール監督は、著名な脚本家ミッシェル・オディアールの二世で、父親はコメディに強かったが、息子は社会派として頭角を現わし、「預言者」(2009)でカンヌ映画祭グランプリを得、将来のパルムドール候補と目された逸材である。
  受賞作「ディーパン」は、主人公のスリランカ人の名であり、彼は、同国内戦時の反政府組織「タミール−解放の虎」の戦士で、政府軍に追い詰められ家族を伴いフランスへ亡命する。本作では、現在、ヨーロッパを一番悩ます移民問題を扱っている。政治亡命し、大都市近郊の犯罪の温床である地区でしか生活をせざるを得ない、苛酷な現実に胸が痛む。
  社会的テーマを持つすぐれた作品が、ハンガリーの新人監督ネメシュ・ラズロの手になる「サウルの息子」である。舞台はナチスの強制収容所があったアウシュヴィッツのガス焼却所で、登場人物はユダヤ系ハンガリー人の一団である。このナチスの犯罪を追う執念に圧倒される。グランプリ(第2席)を受賞した本作は今回の収穫の一作である。
  主演男優賞の「マーケットの法則」も、社会性に富む作品だ。リストラにあった主人公が、やっとの思いでスーパーの監視員の職を得るが、不正摘発の際の非人間的行為に耐えられず、せっかくの職を手放す物語であり、現在のフランスの最大の問題、失業に触れた力作である。
  アジアからは中国語圏の新旧エースホウ侯シャオ孝シェン賢監督(「黒衣の刺客」、スー・チー主演)とジャ・ジャンクー監督の「山河故人」が登場した。侯監督は監督賞を得た。

「ディーパン」
 
「サウルの息子」

主演男優賞のヴァンサン・ランドン
(C)八玉企画
 
監督賞受賞のホウ侯シャオ孝シェン賢監督
(C)八玉企画


レベル高かった是枝監督の作品

「海街daiary」(是枝裕和監督)
  (C)八玉企画

 日本からは是枝裕和監督の「海街diary」が出品された。是枝作品、大変行き届いた作りで、総てにおいてレベルが高かったが、審査委員のお眼鏡にかなわなかった。「ある視点」部門では、黒沢清監督が「岸辺の旅」で第2席の監督賞を獲得、彼独特の異次元的世界が描かれている。
  今回の受賞は、フランスの4冠獲得とコンペ19本中5本を占める活躍ぶりが目を引いた。本年は突出した作品がないと言われるが、コーエン兄弟をはじめとする審査員会は、移民、失業、ナチスの過去の犯罪等と、時代の潮流をきちんと見据えていた。




(文中敬称略)

《了》


しんぶん赤旗 (文化 学問欄)2015年6月2日掲載号より転載


中川洋吉・映画評論家