「第28回東京国際映画祭」
社会と向き合い世界の現実映す |
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本年の東京国際映画祭は28回目を迎え、10月22日(木)から31日(土)まで六本木会場を中心に開催された。欧米人の参加が少ないのは例年と変らないが、アジア人の姿が目立った。
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東京グランプリの「ニーゼ」
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今年の受賞作は「ニーゼ」(東京グランプリ、最優秀女優賞)、「カランダールの雪」(最優秀監督賞)、「スリー・オブ・アス」(審査員特別賞)、「地雷と少年兵」(最優秀男優賞)など、納得のいくものであった。受賞作品は社会と向き合い、世界の現実を反映している。これは、実力派監督中心の審査員たちの鋭い感性に裏打されたものといえよう。
審査委員長はアメリカの監督ブライアン・シンガー、彼は旧大映出資の若手映画監督プロジェクトに通り、第1作「パブリック・アクセス」(1993年)でデビューし、その後世界へ羽ばたいた。ノルウェーのベント・ハーメル監督は現在「1001グラム ハカリ知れない愛のこと」が公開中。デンマークの女性監督、スサンネ・ビアはアフガン帰還兵を描いた「ある愛の風景」(2004)で注目された。
「ニーゼ」は文句のない作品だ。ブラジルのホベルト・ベリネール監督の第2作目である。主人公のニーゼは実在のリオデジャネイロ郊外の病院に勤める女性精神科医であり、赴任先では、電気ショック療法を用い、精神病患者の人権を奪う治療が続けられている。
これに対し、彼女は患者たちの個を尊重する治療を主張し、病院内で孤立する。
しかし、無意識の中に人間性を見出すユング理論により、今まで無気力であった患者たちに個性的な人間性を与え、改革に成功する。1940年代の社会の根深い因習と闘うニーゼの知性と実行力が見どころであり、ヒューマニズムに基く骨太な人間ドラマとして見応え充分だ。
審査員特別賞の「スリー・オブ・アス」は現在の社会的な問題、移民についての考察だ。ホメイニ政権下の活動家の、イラン脱出の物語である。イラン系フランス人監督ケイロンの父親の実話をベースとし、権力と闘う人間を、移民を通して描く現実的視点が鮮やかだ。注目すべきは最優秀男優賞「地雷と少年兵」である。第2次世界大戦後のデンマークで捕虜となったナチスの少年兵が、地雷除去の危険な使役に駆り出される、被害を受けた国の加害者責任を取り上げている。このテーマは、やはり表面化するには70年の歳月が必要であったとの思いを強くする。
日本からは「FOUJITA」(小栗康平監督)、「さようなら」(深田晃司監督)、「残穢[ザンエ]−住んではいけない部屋−」(中村義洋監督)の3作が出品された。小栗作品は戦前、パリ画壇の寵児であった藤田嗣治を描き、前半1時間はパリ、後半1時間は戦時中の日本と、2分割する構成で、二つの時代性が浮き彫りにされ、映像にも工夫がこらされ、レベルの高い作品である。本作が受賞の対象外となったことは残念だ。
(文中敬称略)
《了》
赤旗2015年11月10日掲載号より転載
中川洋吉・映画評論家
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