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『第69回カンヌ国際映画祭』
「格差」に焦点 世界見えた

ケン・ローチ監督『ダニエル・ブレイク』

 
是枝裕和監督『海よりもまだ深く』
(C)八玉企画
 
ブリランテ・メンドーザ監督『マ・ローサ』

 
ブー・ジュンフェン監督『人生見習い』

 
グザビエ・ドラン監督『イッツ・オンリー・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド』

 
クレベル・メンドンサ・フィロ監督『アクエリアス』

 
 

 第69回カンヌ国際映画祭は11日、ウディ・アレン監督の「カフェ・ソサエティ」(ノン・コンペ=非審査作品)で幕を開け、22日、ケン・ローチ監督の「ダニエル・ブレイク」のパルムドール受賞で閉幕した。今年のカンヌは、ここ数年の異常気象と打って変わり晴天続きで、人口7万人の同市は大変なにぎわいを見せた。
今年のコンペ部門では、過去のパルムドール受賞監督やアルモドバール、ジャームッシュ監督らの作品がそろったが、新鮮味に欠ける印象が強かった。しかし、その印象は裏切られる結果となった。

 日本からはコンペ部門の出品はなく、サブにあたる「ある視点」に是枝裕和監督の「海よりもまだ深く」と36歳の新進、深田晃司監督の「淵に立つ」が選ばれ、深田監督作品が審査員賞を獲得。ただもともと、賞のなかった同部門、18本の出品数に対し、5本の受賞は多すぎる。他にスタジオ・ジブリとフランスの合作アニメ「レッドタートル ある島の物語」が特別賞を得た。

  ケン・ローチ監督は今年80歳で、「麦の穂をゆらす風」(2006)に続く2度目のパルムドール。主人公ダニエルは59歳の大工だが、心臓疾患がもとで失業、保険給付のために福祉事務所通いをするが、思うように事は運ばない。「完備」した福祉制度と民間のフードバンク等のセーフティネットはあるが、多くの貧困者が網の目からこぼれ落ちる現実がある。それら、貧しい人々や労働者階級の立場に立つローチ監督の視点は、もはや円熟の域に入り、決して枯れていない。記者会見で積極的に政治問題にも触れ、「現在の欧州を揺るがす難民問題は英国にも責任の一端がある」と断じている。

 女優賞は、フィリピンのブリランテ・メンドーザ監督作品「マ・ローサ」の主演ジャクリン・ホセが選ばれた。マニラのスラムで怪しげな小商いをしながら子育てをする肝っ玉お母が役どころ。彼女を通しての作品のエネルギーには圧倒される。アジア映画は、コンペ作品こそ少ないが、死刑囚監房の看守の物語「人生見習い」(シンガポール、ブー・ジュンフェン監督)(「ある視点」)、ナ・ホンジン監督作品「コクソン」(韓国)(ノン・コンペ)、コンペ出品のパク・チャヌク監督作品「お嬢さん」(韓国)はいずれも力感がある。

 第2席のグランプリは、カナダの今年27歳の天才青年グザビエ・ドラン監督作品「イッツ・オンリー・ジ・エンド・オヴ・ザ・ワールド」に決まった。彼の得意とするテーマは「家族」だが、本作は「家族」の逆を行く。家族故の負の連鎖を見詰めている。彼の人間観察眼が光る。
今年のカンヌは全体的に「家族」のテーマが後退し、むしろ格差問題に目を向けている。住宅問題を扱うブラジルの「アクエリアス」や、イランのアスガー・ファルハディ監督の「セールスマン」は高く評価される。本作は脚本賞と主演男優賞を受けた。ファルハディ監督作品の重厚さは特筆ものだ。
  今年は、最初は多少期待薄であったが、結果的に多様な作品が揃い、映画から世界が見えてくる楽しさを味わせてくれた。

 



(文中敬称略)

《了》

しんぶん「赤旗」2016年5月27日掲載号より転載

 

中川洋吉・映画評論家