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『日本と再生 光と風のギガワット作戦』
原発事故後の日本の対応に疑問符
自然エネルギーの現況を伝える

 2011年3月11日の東日本大震災による福島第一原発事故は、今まで安全と言われてきた原発の恐ろしさを目の前に突き付けられるような、人類の存亡そのものにかかわる出来事である。当然、危険な原発を廃炉とし、安全なエネルギーへの転換をもたらす方向性へと進むはずであった。しかし、日本政府の方針は現実とは異なる道を歩み始めている。『日本と再生 光と風のギガワット作戦』(以下『日本と再生』)は、長編ドキュメンタリーである。テーマも、原発の惨禍の記録ではなく、将来へ向けた原発の無い社会を目指す方向性を打ち出している。


一弁護士の闘い

ドイツ風力発電
(C)Kプロジェクト

 監督は、反原発訴訟を多く手掛ける弁護士、河合弘之である。彼は既にドキュメンタリー『日本と原発 私たちは原発で幸せですか』(2014年)、その改訂版『日本と原発4年後』(15年)を監督している。彼は弁護士と映画監督の二足のわらじで、精力的に活躍している。さらに本作では、ナレーションと、画面に登場し進行役も務める。
現在72歳の反骨あふれる彼の作品には、友人で反原発運動の同志である、環境学者飯田哲也が企画・監修者としてクレジットに名を連ねる。


飯田哲也との2人3脚

阿蘇での小型発電
(C)Kプロジェクト


 飯田哲也は現在、認定NPO法人環境エネルギー政策研究所(ISEP)所長、または反原発の論客として、積極的に発言を続けている。今や自然エネルギー政策では国内外で第一人者として認められ、今回は河合弘之とコンビを組み、世界の自然エネルギー事情を視察する。
その2人の行動を追うのが本作『日本と再生』である。河合弘之が行く先々で、関係者に疑問点をぶつけ、それを整理し、かみ砕き、見る者の理解に手を差し伸べるのが、環境学者の飯田哲也である。彼らの2人3脚で、自然エネルギーの実情が次第に明らかになる。



自然エネルギーとは

中近東の現場を訪れる河合(中央)と飯田(右)
(C)Kプロジェクト

 世界各国での発電事情を視察
原発に代わる自然エネルギーには、原子力とは異なるクリーンなエネルギーを指す。太陽、風、地熱、バイオマスなどで、すべて日本にある資源である。この資源の活用の実情を直接見聞きするために、河合・飯田コンビは発電がどのように稼働しているのかを実地に見て歩く。
ドイツ、デンマーク、アイスランド、アメリカ/ハワイ、中国、そして日本国内の中小規模の発電施設を精力的に訪れ、土地の人々と会話を交す。彼らは行く先々で、最新の自然エネルギー活用を目の当たりにし、脱原発の正当性を確信する。



風力発電

風力発電現場
(C)Kプロジェクト

 本作の冒頭シーンで、自然エネルギーが何たるかが良く理解できる。ドイツでは、海岸線一面に風力発電機の羽根が風を受け回転する。感嘆する河合弘之は、「一体、何基の風力発電機が回っているのか」を問う。担当者は「300基あり、原発30基分」と答える。その規模の大きさには驚かされる。
3・11以降、原発推進論者のドイツのメルケル首相は、国民の安全を考え、脱原発へと大きく舵を切ったのである。その1つがこの巨大な風力発電機群である。



地熱発電

視察中の河合と飯田
(C)Kプロジェクト

 彼らは、火山の地熱を生活の中に取り入れているアイスランドへと足を延ばす。アイスランドは北海の孤島で、人口30万人に対し、羊がその倍と、日本では考えられぬ特異な島国である。大地はほとんど岩だらけ、木は生えず、首都レイキャヴィークの水道はかすかに硫黄の匂いがする。もちろん、家庭用温水も地熱利用だ。
また、ラグーンと呼ばれる広大な温泉があり、水着をつけた大勢の市民が温浴を楽しむ。日本の温泉とは全く違う趣である。火山島(1973年ヘイマエイ島火山噴火、2000年のヘクラ火山噴火など)ならではの利用法である。


自然エネルギーへの異論

中国の太陽光発電
(C)Kプロジェクト

 自然エネルギーの中で一番大きな割合を占めるのが、太陽光である。詳しい統計は分からないが、アジア、アフリカ、中近東の太陽に恵まれる国々や地域は、太陽光を利用する自然エネルギー利用政策を今後採用すれば、エネルギー問題の相当部分は解決できるのではなかろうか。
ドイツの政策転換は、フランスからの買電で賄っているとの説はあるが、これは間違いであることが、本作で立証されている。ドイツ、フランスは、互いに買売電をし、ドイツは買電を東欧諸国へと供給している。単なる買電とは異なる。このような悪意を伴う誤解は、日本の電力会社が流した安全神話と同様、タチが悪い。
話は脱線するが、うそを垂れ流し、原発事故を引き起こした東電幹部が、刑事告訴を受けないことに疑問を覚える。例えば、火事を出し、出火責任を問われる人が賠償金を請求されても仕方がないのと同様、電力会社上層部は何らかの責任を負うのが当然である。



異論に対する反撃

アメリカでの視察
(C)Kプロジェクト

 原発の安全性に疑問を持つ人々は、原発をトイレのないマンションに例え、脱原発を迫ったが、絶対安全神話を盾とした電力会社、政府は、この疑問を無視し、大事故をもたらした。そして、現在の風力発電攻撃に見られるような発言で、その価値を認めない。
しかし作中、河合・飯田コンビは、その異論に対し、明快に答えている。それは、自然エネルギーの複合的利用である。例えば、風が吹かねば、太陽光ないし地熱、そしてバイオマスの利用を説いている。



新たな提言

 『日本と再生』の中で複合利用が打ち出されているが、彼らはさらに付加価値の存在にまで言及している。
河合弘之は、原発事故の被害を語る上で、対抗手段として自然エネルギーの複合利用を提案する。さらにもう1つ、この利用を長続きさせる上で「自然エネルギーがもうかること、経済ベースに乗せること」を付け加えている。もうかれば次へとつながる論法で、これは傾聴に値する。



安全を無視する存在

 本作で訴える自然エネルギー利用は、安全で実現可能である。では、なぜ実現が出来ないのか。わが国は明らかに社会全体が時計の針の逆戻り状況に陥っている。次々と認可される原発再稼働、古いものを使い延し、何とかする手法だが、既に古いものは耐用年数に早く届くのは明らかであり、危険極まりない。
しかし、この国民を危険にさらす政策は、電力会社、官庁、そして電力会社に貸し付けている金融機関と政府が一体である「原子力ムラ」が元凶であることを河合・飯田コンビは喝破している。
彼らは言う。「自然エネルギー政策」導入は、経済人の意識そのものにかかっている。まさに、正論である。
日々の安全性を第一に考えるなら、筆者は「自然エネルギー利用」に与(くみ)する。

 



(文中敬称略)

《了》

2月25日からユーロスペース、横浜シネマリンにてロードショー中

映像新聞2017年3月6日掲載号より転載

 

 

中川洋吉・映画評論家