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『第70回カンヌ国際映画祭』
移民・難民問題抱える欧州映す

 「第70回カンヌ国際映画祭(2017)」は、5月28日に12日間の幕を下ろした。今年のカンヌは好天に恵まれ、暑いほどであった。映画関係者や観光客も多く、相変わらずの盛況だった。
上映会場は毎回満席で、ジャーナリストの関心の高さがうかがえた。また、中国の若い報道記者たちの数の多さには驚くべきものがある。

ユーモアの中に

「スクエア」

 メーンのコンペティション部門は70回という記念の年でありながら、正直言って、いささか低調で、地味かつ暗い作品の多さが目に付いた。このことは、移民、難民問題を抱える現在の欧州を反映している。
最高賞のパルムドールには、「スクエア」(リューベン・オストルンド監督、スウェーデン)が輝いた。暗い作品の多い中、本作は巧まざるユーモアを効かせ、話を思わぬ方向へ導く面白さがある。主人公の美術館のキュレーター(学芸員)が、ある時、移民とおぼしき2人組に金をすられることに端を発する、予期せぬ事態に翻弄(ほんろう)される様子が何ともおかしく、物語の展開に乗せられる。しかし、移民問題の深刻さが透けて見える作りである。

「BPM」

  第2席にあたるグランプリには、地元フランスの「BPM」(ビーツ・パー・ミニット、原題は『脈拍120』)が選ばれた。元々はアメリカで生まれたエイズ偏見撲滅運動ACT UPが1990年代にフランスに伝わり、ACT UP−Parisという組織ができた。若いエイズ患者、主としてゲイたちが偏見反対を訴え、関係官庁やエイズ対策の講演会に押しかける。「BMP
」は、彼らの活動や生活の中における仲間同士の連帯を描き、エイズと社会的偏見に揺れる青春を追う。下馬評ではパルムドール候補の一番手であった。
監督賞は、アメリカのソフィア・コッポラ監督「ビガイルド」(餌食の意)に与えられた。19世紀のアメリカで、北軍兵士が負傷し、南部の若い女性ばかりの寮に担ぎ込まれる。この、寮内の唯一の男性を巡る女性たちの嫉妬と確執を描き、予期せぬラストが見ものである。
主演男優賞は、アメリカのホアキン・フェニックス(リム・ラムジー監督、「ユー・ワー・ネバー・リアリー・ヒア」英国)が受賞した。冷酷な殺し屋の物語で、フェニックス演じる怪人めいた殺し屋の矛盾する内面を描く、後味の悪い作品である。しかし、面白がる観客も結構おり、評価が分かれる作品であろう。
主演女優賞は、ドイツのダイアン・クルーガー(ファティ・アキン監督、「イン・ザ・フェイド」ドイツ)である。移民間の抗争に夫と子どもを失う女性の復讐(ふくしゅう)物語。現代ドイツの一面をえぐる快作。


「光」コンペ外で

 70周年記念賞はハリウッド女優、ニコール・キッドマンが獲得。本人は既に帰国、受賞者不在の授与であった。
今回で5回のコンペ出品を誇る河P直美監督の「光」は、コンペでは無冠。サイドの賞であるエキュメニカル賞(キリスト教関係団体主催)の受賞にとどまった。




(文中敬称略)

《了》

「赤旗」(文化・学問欄)2017年6月6日掲載号より転載

 

中川洋吉・映画評論家