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『ブラック・クランズマン』
スパイク・リー監督が実話を映画化
人種差別を扱うもおぼけた味わい

 待望久しい、黒人映画の旗手、スパイク・リー監督の新作『ブラック・クランズマン』(2018年、米国、135分/原題「BlacKkKlansman」)が公開される。米国黒人の立場に依拠し、黒人に対する差別、不平等、不公平に正面切って異を唱えるリー監督作品は、分断される米国社会の現状を斬(き)り、告発するところに特徴がある。なお、本作は18年「第71回カンヌ国際映画祭」で第2席のグランプリを受賞。その上、19年「第91回アカデミー賞」で脚色賞も得ている。

 1950年代から60年代にかけての黒人の公民権獲得運動の盛り上がりが、作品の背景となっている。そこにこだわるところが、いかにもリー監督らしい。
彼の姿勢は常にパンチが効き挑発的である。若い時代の彼と同様、現在も鋭く踏み込み、決して丸くなっていない。ここが彼の真骨頂であり、妥協をかたくなに拒み通す精神の強じんさを保っている。
リー監督の第1回作品は、25歳の学生時代に製作した『ジョーズ・バーバー・ショップ』(1982年/「Joes' Bed-Stuy Barbershop」)で、最新作『ブラック・クランズマン』まで36年間、彼のスタイルは一貫し社会的発言を続けている。
彼のフィルモグラフィーを見れば、数本を除いてほとんどの作品が日本で公開されている。彼は1986年のカンヌ国際映画祭監督週間で、前述の『ジョーズ・バーバー・ショップ』が選考され、黒人若手監督として注目された。

2人の刑事 ロン(右)、フリップ(左) (C)2018 FOCUS FEATURES LLC, ALL RIGHTS RESERVED. ※以下同様

KKKの集会

ロンとローラ

署内の議論

フリップ

KKKの首領

署内のKKK幹部との対話

「監督週間」

 カンヌ国際映画祭にはパルム・ドール(「金のしゅろ」の意、最高賞)を競うコンペ部門、ある視点部門、クラシック映画部門、シネフォンダシオン(学生作品対象)がある。
ほかに、併行部門として監督週間、批評家週間があり、それぞれ国立映画センター(CNC)からの助成金を受けている。助成額はパルム・ドールを競うコンペ部門が圧倒的に多く、監督週間は1億円(推定)を切る助成である。
68年の「五月革命」後、若手映画監督たちの突き上げで、翌69年に監督週間が立ち上げられた。若手監督の推薦により、若き映画青年であったピエール=アンリ・ドゥロが総代表に推され、30年間そのポストにとどまった。
ドゥロ総代表は、新人で新しい映画コンセプトを持つ作品を選考の基準として、世界中の新人作品を集め、コンペ部門とは一線を画し、よりアート的な作品ぞろえを徹底させた。82年のスパイク・リー監督は、まさにその方針に沿うものであった。
この若き黒人監督作品は、世界的に無名だった。しかし、監督週間での評判を背に、8万jという低額予算作品が700万jを稼ぐ大化けをし、映画界を驚かせた。
一般的風潮として、監督週間で洗礼を受け、コンペ部門へとランクアップされるのが常態化していた。大島渚監督もこの例にもれない。そして、86年に『シーズ・ガッタ・ハブ・イット』(「Shes'Gotta Have it」)で本選部門に選考され、押しも押されもせぬ、黒人を代表とする世界的監督となった。
勢いづいたリー監督は89年には『ドゥ・ザ・ライト・シング』(「Do the Right Thing」)でコンペ部門に選考されたが、無冠に終わる。その時、リー監督は「人種差別」と怒った話が伝えられている。白人の壁は彼にとって厚かった。
この89年、日本から今村昌平監督の『黒い雨』が選ばれたが、うわさによると、ヴィム・ヴェンダース審査委員長が今村監督作品へのパルム・ドール授賞に難色を示したらしい。  
  


差別に対する告発

 本作『ブラック・クランズマン』の冒頭は、歴史に残る名画『風と共に去りぬ』(1939年、ヴィクター・フレミング監督)の一場面から始まる。主演女優ヴィヴィアン・リーが、南軍の傷病兵の間を駆けずり回る場面である。『風と共に去りぬ』は、南部白人に支持される南軍と、奴隷解放を掲げる北軍との南北戦争を素材にした作品だ。本作は、白人至上主義の立場に立ち、黒人側からの批判はあるが、映画史上の名作との評価を受けている。
リー監督はまず、タイトルバックに「白」と「黒」の対決の象徴である同作を持ち出し、人種差別反対の拳(こぶし)を挙げたのだ。



黒人警官の採用

 
黒人警官がKKKに侵入捜査
原作『ブラック・クランズマン』(「Black Klansman」、2014年出版/翻訳版は19年2月28日にPARCO出版が発行)は、コロラドスプリングスの黒人警官、ロン・ストールワースの実体験に基づいた回想録で、1978−79年の出来事である。映画の舞台は同じだが、時代は、50−60年の黒人による公民権運動最盛期より少し後れる72年に設定されている。それはブラック・パワーの全盛期時代である。
物語は、コロラドスプリングスの警察署に、初の黒人警官として採用された若き日のロン・ストールワース(ジョン・デヴィッド・ワシントン)が主人公。彼は、悪名高い白人至上主義者による秘密結社「KKK(クー・クラックス・クラン)」の新聞広告に注目し電話を掛けたことで、潜入捜査をする羽目になる。
「KKK」は黒人に対し、公然とリンチをする極右団体で、そこに黒人1人を潜り込ませる発想が面白い。極右の狂信団体に、学生運動活動家を送り込むようなものである。



公民権運動とブラック・パンサー結成

 アフリカ系米国黒人公民権運動は、主に1950年代から60年にかけて、黒人への公民権適用、人種差別の解消を求めて実施された大衆運動である。この運動に大きな影響を与えたのがキング牧師で、彼は人種差別、人種隔離の撤廃を求め、ワシントン大行進(20万人以上の参加者)を指導した。彼の演説「I have a dream」はよく知られている。
この運動で黒人は一定の成果を収めるが、68年にキング牧師が殺される。白人の止まらない暴力に対し、黒人側の自警団「ブラック・パンサー」が結成され、力の対決の様相を見せる。



潜入警官の活躍

 「KKK」内部の情報を得るために、ロンは誰も考え付かないアイデアを編み出す。「KKK」に黒人を潜入させれば袋叩きに遭うのは目に見えており、同僚の白人警官フリップ・ジマーマン(アダム・ドライバー)を送り込む。
本作は実話ものだが、このような奇想天外なアイデアが光る。しかも、黒人たちの70年代流行(はやり)のアフロヘアーで極めるあたり、時代相もつかんでいるが、何かマンガ的なのだ。リー監督作品には黒人の権利獲得を前面に押し出す、闘いの作品でありながら、どこかトボケた味わいがある。
本作は、政治的作品ではあるが、ヒューマニズムに根差し、黒人社会の現状を描写している。また、パンチの効いた音楽や踊り、あふれるスピード感で見る者をグイグイと引っ張るノリの良さは、作品に強い彩りを与えている。見ておきたい作品である。






(文中敬称略)

《了》

2019年3月22日からTOHOシネマズ シャンテほか全国公開

映像新聞2019年3月11日掲載号より転載

 

中川洋吉・映画評論家