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『また、あなたとブッククラブで』
女性の側から見た人生を考えさせる1作
「性」が生きるための活力源
4人の豪華ベテラン女優を起用

 老境に達した女性たちの今、そして未来の生き方を示唆する『また、あなたとブッククラブで』(2018年/ビル・ホルダーマン監督、共同脚本・製作、米国、104分)は、女性の側からの生き方を考えさせる1作だ。ダイアン・キートン、ジェーン・フォンダ、キャンディス・バーゲン、メアリー・スティーンバージェンというベテランに属する豪華女優陣の起用と、話題性は十分だ。

ブッククラブの4人組  (C)2018 BOOKCLUB FOR CATS, LLC ALL RIGHTS RESERVED  ※以下同様

クララ母子ビビアン(左)、キャロル(中)、シャロン(右)

ダイアン(左)、シャロン(右)

ダイアン(左)とアーサー(右)

ビビアン(右)とミッチェル(左)

シャロン(右)とジョージ(左)

キャロル(左)と夫のブルース(右)

読書会

 本作の原題は『Book Club』と、簡素である。タイトルの意味は女性4人の読書会で、その4人が前記の女優たちだ。1970年から80年代にかけて、米国映画の礎を築き、今もなお衰えを知らない輝き、トップを走り続ける名女優たち4人の初共演作品である。
メンバーの1人、ビビアン(ジェーン・フォンダ)が女流作家の官能小説『フィフティ・シェイズ・グレイ』(E.L.ジェームズ著)をお題本として読書会に持ち込む。しかし、メンバーはエロティックな内容に難色を示す。だが、そこは燃える過去を持つ面々、仕方がないと装うが興味津々である。 
  


老人性の否定

 本作の撮影当時、女性たちの実年齢は平均74歳、一般的には老境に入る。観客は最初、花も色もあせたおばあちゃん映画を想像し、理想的老境などが頭をよぎるであろう。しかし、本作では、その老女たちがあえて世間の偏見と呼ぶ考えをひっくり返してみせる。
それも性への関心の後押しもあって。映画自体が全く老人臭くない。まるで、老人映画の走りとなった『八月の鯨』(1987年)の逆をいく、彼女たちの元気な生き方が本作の趣旨である。



キートンとフォンダの役割設定

 
撮影当時、キートンは72歳、フォンダは81歳、バーゲンは72歳、そして一番若いスティーンバージェンが65歳と高齢である。作品はキートンのために書かれた。役名も彼女の名前をとり「ダイアン」としている。
劇中のダイアンは1年前に夫を失くし、アリゾナ在の成人した娘たち2人は、執拗(しつよう)に同居を勧める。母の老後を心配してのことだ。しかし、老後を心配されるほどの歳とは全く思わないダイアンは、返事を左右する。親友たちとの絆(きずな)を大事にし、読書会を催す。今の気楽な生活を楽しみたい意志の方が強い。
私生活のダイアンは、ひねりの効いたコメディ作品の監督・主演で知られるウッディ・アレンの長年(1969年―81年)のパートナーであったことは有名で、彼の作品の"ミューズ"でもあった。そんな彼女の過去の生き方もホルダーマン監督の頭の中にあったと推測できる。
ビビアンは独身主義を貫く。今やホテルのオーナーで、複数の男性との関係を楽しんでいる奔放で行動力のある女性。彼女は、ベトナム戦争時、「ハノイ・ジェーン」と呼ばれるくらい行動的左翼で、私生活では、反戦活動家のトム・ヘイデンと結婚生活(73年−89年)を送った。このように、人物的には一筋縄ではいかぬ女性だ。
筆者は、78年の「カンヌ国際映画祭」で超満員となった、ジェーン・フォンダ主演『帰郷』の記者会見を思い出すが、美しく、迫力のある女性像が目に焼き付いている。



シャロンとキャロル

 4人組の1人、シャロン(キャンディス・バーゲン)は、並居る秀才を押しのけて連邦判事の試験に合格する。お堅いはずの裁判官の職業であるが、彼女はなかなかのくせ者。リベラル派だけあり、亡き最高裁女性判事の名、ギンスバーグを猫に命名する。
夫とは18年前に離婚、その後は猫と2人暮らし。職場では、一応お堅いはずだが、息子から電話と告げられると5分間の休廷。ある時は、ネットの交際相手探しにのめり込み、開廷中の法廷を2週間延期。やることがすごい。
扮(ふん)するバーゲンはコロコロ太った老婦人、かつての知的で頭の良い美人の面影はない。本当に、あの聡明な美人が、と思わすくらいの変わり様だ。私生活では、フランスのヌーヴェル・ヴァーグの巨匠監督、ルイ・マルと結婚(1981年―95年)、彼の死まで添い遂げる。
4人組のもう1人、キャロル(メアリー・スティーンバージェン)は、レストランのシェフで、35年を経た結婚生活は、危機に直面している。原因は定年後に無気力になった夫で、おまけにED(勃起障害)ときている。彼女は「世間の人のように私も"やりたい"」と家の前で大声で叫び、通る人を驚かす。
彼女ら4人は、伴侶を欠くメンバーもいるが、裕福な生活を送り、読書会では一献傾けながらワイワイ、ガヤガヤとおしゃべり。彼女たちにとり性の話題が最大の関心ごとであり、読書会の会話もあからさまですごい。
シャロンの18年間のゴブサタが話題となり、1人が「随分長いのね、アソコはどうなっちゃってるの」とチャチを入れる。ほかのメンバーの1人が「そういえば、世界最古の洞窟壁画」とダメを出す。若い人たちのガールズトークも真っ青だ。
ここには、女性のたしなみや公序良俗という観念はなく、矢でも鉄砲でも来いとの熱さがある。性は生きるための活力源であることが、恥ずかしがらず主張されている。




それぞれの事情

 彼女たちは、良い相手を見つけることを躊躇(ちゅうちょ)しない。
ある時、ダイアンは飛行機で隣席の理想の男性ミッチェル(アンディ・ガルシア)にわざと倒れ掛かる大芝居を打つ。彼女のナンパ作戦だ。これで会話の糸口ができ、彼女の試みは大成功。そして、ご歓談、ひとしきりついてから例の官能小説を読み始める。
降り際、ミッチェルはダイアンに本のタイトルを聞く。彼女はとっさに『白鯨』と答える。彼は「白鯨?…グレイではないか」と問い返す。その後、ミッチェルの誘いでディナーを共にし、順調に交際が続く。ダイアンはニンマリ。
一方、発展家のビビアンは、自分がオーナーのホテルのロビーで40年前の元彼アーサー(ドン・ジョンソン)とバッタリ。彼にあいさつされたビビアンの答えがふるっている。「あなたには6歳の時に会ったきりね」と嫌味をかます。このような当意即妙(とういそくみょう)なやり取りを米国人は好むが、それを地で行く会話だ。
裁判官のシャロンもネットで交際相手を見つけ初のデート。2人は意気投合し、別れ難い風情。相手の男性ジョージ(リチャード・ドレイファス)が突然キスをし、そのまま車に戻り合体。
夫の「立ち」が悪いキャロルに、ビビアンがバイアグラを渡す。キャロルは早速夫の飲み物にそっと入れる。その効き目はすごく、運転中の夫は蛇行運転。全身の神経に震えが来たようだ。
そこにパトカーが来て注意。婦人警官がキャロルに「頑張ってね」と励ましのひと言、しゃれている。




ハリウッド仕様

 世間をはばかるようなガラの悪いガールズトークだが、笑いは取れる。この笑いと物語の面白さで観客を引き付ける仕掛けでだ。釣り糸を垂らし引っ掛ける疑似餌は、ダイアンを始めとする美人女優である。
話を面白く、観客に興味を持たすためには、俳優のネーム・バリューが必要であり、ハリウッド映画製作の手の内を見るような話の運びだ。入場料を取った以上、ブラ手では帰さない、ハリウッドのシナリオ第1主義の典型例といえる。
フェミニズム思想が底流として流れている辺り、ホルダーマン監督の自己主張と解釈できる。見て楽しい作品だ。





(文中敬称略)

《了》

映像新聞2020年12月14日掲載号より転載

 

中川洋吉・映画評論家