このサイトからダウンロードできる
PDFデータの閲覧のために必用なAcrobatReaderは以下のリンクより
無償でダウンロードできます。



このサイトからダウンロードできる
PDFデータの閲覧のために必用なAcrobatReaderは以下のリンクより
無償でダウンロードできます。



『ジャン=ポール・ベルモンド傑作選2』
フランスの大物俳優主演5本が追加上映
娯楽に徹した姿勢が成功の因
映画史上の史跡を辿る貴重な企画

 フランスの大物俳優、ジャン=ポール・ベルモンド主演作品の中から『ジャン=ポール・ベルモンド傑作選1』とし、日本劇場初公開を含む8本が50年ぶりにHDまたは4Kリマスター版で昨年10月30日から順次全国公開され、現在も上映中だ。「傑作選1」の好評もあり、第2弾として、@『リオの男』(1964年/フィリップ・ド・ブロカ監督)、A『カトマンズの男』(65年/同監督)、B『相続人』(73年/フィリップ・ラブロ監督)、C『エースの中のエース』(82年/ジェラール・ウーリー監督)、D『アマゾンの男』(2000年/フィリップ・ド・ブロカ監督)の5本がHDリマスター版で追加上映される。わが国では忘れられたこの大俳優の再登場は、もはや流行の映画と呼ぶよりは、映画史上の足跡をたどる上でも貴重な企画ともいえる。

「リオの男」 (C)1964 TF1 Droits Audiovisuels All rights reserved  ※以下同様


 
「アマゾンの男」 (C) 1999 STUDIOCANAL - PHF Films All rights reserved.  ※以下同様


 
「エースの中のエース」 (C) 1982 / STUDIOCANAL - Gaumont - Rialto Films GmbH All rights reserved.  ※以下同様


 
「相続人」 (C) 1972 STUDIOCANAL - Euro International Films S.p.A All rights reserved. ※以下同様

   
「カトマンズの男」 (C)1965 TF1 Droits Audiovisuels All rights reserved ※以下同様

歴史に残る俳優

 ベルモンドは1933年生まれ(当年88歳)と老齢ではあるが、フランス映画史の一時代を画した歴史に残る俳優である。コンセルヴァトワール(国立演劇学校)に入学。同窓には、後に共演する、ジャン・ロシュフォール(『カトマンズの男』、『相続人』)がおり、演劇青年として芸能界入りの第一歩を踏み出している。
彼は、役柄からも想像できるが、裕福な家庭の子弟で、父親は著名な彫刻家ポール・ベルモンドで、母親も画家である。住居はパリ16区のヌイイ=シュル=セーヌと、ロンシャン競馬場近くの緑の多い閑静な住宅街だ。
お坊ちゃま育ちのやんちゃ坊主の彼は、サッカー少年であったが、後にボクサーへと転じる。このボクシングがベルモンドのお得意のアクションとして役立つ。60年代から80年ごろは、アクションスターとして鳴らす。
有名なのは、スタントマンなしの空中アクションで、飛行機からほかの飛行機へ飛び移る、命がけのアクロバットは彼ならでの得意技だ。とにかく、運動神経は並み外れていた。体躯は180abにも満たず、決して大きい方ではない。運動神経の良さ以外に、相当鍛えていた様子が見て取れる。 
  


ベルモンドとドロン

 ベルモンドといえば、アラン・ドロンの名を出さねばならない。ドロンは1935年生まれと、ベルモンドとほぼ同年代。彼の少年期はベルモンドと異なり苦労したようだ。役柄は美ぼうを武器にのし上がる、冷徹な人間像を得意とし、実生活でも力への信仰が強く、極右に近い思想の持ち主だ。たまたま見たテレビ出演での彼は、とにかく態度がデカイ。
80年代後半ごろを境にベルモンドは、体力の衰えからか、徐々にアクションものを減らし始める。ドロンが積極的にテレビ出演を始めた時期と合致する。日本における人気は、ドロンは持ち前の美ぼうで女性の人気が高い。本国フランスでは、ベルモンドは人の好いタフマンのイメージをメインに押し出し、彼の人気、稼ぎは抜群であった。



今回の5作品

 
5作品をそろえる今回の傑作選は、アクション冒険路線『リオの男』、『カトマンズの男』、『アマゾンの男』があり、ナチスものの『エースの中のエース』と連なるが、各作品に華を添える女性たちは出過ぎず、ベルモンドをあちこちと引き回す役柄が多い。
その中にあり、『アマゾンの男』の相手役、ギャビ(マリー=フランス・ピジエ)は、黙って男を引き回すタイプではなく、より強い独立した存在として扱われる。彼女は小説も書く才女であったが、睡眠薬の過剰摂取により2011年に若死している。
ベルモンドの最後のアクション映画『相続人』は、財閥間の権力闘争を描き、今までとは違う味わいがあり、従来の彼のスタイルとの違いがはっきりしている。



『リオの男』

 冒険アクションものとして、『リオの男』はベルモンドの冒険アクション俳優の原型を作り上げた作品だ。見て面白く、難しいことは抜きの、肩の凝らない1作であり、興行性は大変高い。1964年という時代、一般庶民にとっては、まだまだ海外旅行が盛んではなく、エキゾチックな風景の中でベルモンドを縦横無尽に躍らせる手法が取られ、娯楽映画の王道の先駆けとなった。
そこが、企画者(あるいはプロデューサー)の大きな狙いであったことは想像に難くない。とにかく痛快な1作であり、スピルバーグ監督が9回劇場で見たエピソードは有名で、冒険アクションのオリジナルなスタイルの完成形といえる。
その後、翌年に売れ筋作品『カトマンズの男』、さらに36年後には『アマゾンの男』と、連続ものを世に出した。(80年代前半から、彼はメインを演劇に移した)。これらの「何々の男もの」は、娯楽作品として、予算の仕掛けが大きく、いわゆる肩の凝らない勧善懲悪ものに仕上げられている。
ショーン・コネリーのボンド・シリーズとは異なり、女性陣のフェロモンを控え目にしたところは、一般大衆に照準を合わせたプロデューサー側の狙いだ。「色気がなければ売れない」とする通説を極力抑えたフシがある。
メインの見せ場としては、リオの湾を取り巻く海岸のビル群のファサードを、スタントマンなしでの移動(眼下のリオの浜辺の絶景が売り)が挙げられる。今では合成できるが、技術的に未完成であった当時としては、最高のアクション的要素であったろう。



『カトマンズの男』と『アマゾンの男』

 「何々の男」ヒットシリーズの『カトマンズの男』と『アマゾンの男』は、『リオの男』の「2匹目のどじょう」感は否めない。
『リオの男』系の作品として2本がある。『カトマンズの男』は、『リオの男』のスタッフと東南アジア(主として香港)を舞台とした冒険アクション・コメディーで、特に飛行機2機を使った空中戦は、ベルモンドお得意のスタントマンなしの、くんずほぐれずの大見せ場となっている。
もう1本、『アマゾンの男』は、単調なジャングルものとは大違いで、宇宙から迷子となった少女を送り戻す話。何といっても変幻自在のアマゾンの森の変わり様が目を見張る。『リオの男』以来36年振りのアクション・コメディーである『アマゾンの男』は、意外と拾い物である。



異色の犯罪もの

 今回の傑作選の中では、冒険ものではない『相続人』が光る。アクションを排した犯罪もので、主人公に扮(ふん)するのは、もちろんベルモンドである。
両親を飛行機事故で亡くし、父親の巨大財閥の後を継ぐが、閥内権力闘争でアンチ社長派と対決し、悪賢い敵側の策略を次々とかわす、ストーリー性の知恵の絞り方が見もの。これまでの熱血スーパーマンの役柄をガラリと変え、冷徹な男を演じるベルモンドの、役者としての幅の広さを披露する。
作品の狙いも、今までとは違うベルモンド像を見せる狙いがはっきりしている。多くのベルモンド・ファンはスタントマンなしで演じる彼に拍手喝采を送り、彼のフランス映画界のスーパースターの地位作りに貢献したが、違う面の彼にも多彩な資質を認めている。
もちろん、演劇畑出身の彼だけに、役柄の広さは当然であり、ヌーヴェルヴァーグの口きり役となったジャン=リュック・ゴダール監督の『勝手にしやがれ』(1959年)の自滅的な生き方をする青年像も、五月革命の若者の反乱での負け組を演じ、一世を風靡(ふうび)し、そこには時代相がにじんでいる。
五月革命の余波の残る70年代は、ヌーヴェルヴァーグから離れ、徹底した娯楽作品志向で、ベルモンドとドロンが娯楽映画の世界を引っ張ったことは事実である。ベルモンドの爽やかな軽さ、感じの良さ、身体能力の高さを見逃さないスタッフ陣の存在は重要である。高額予算作品作りにかけてはピカ一のプロデューサーの眼力、映画の本質でもある娯楽に徹した姿勢も成功の因となっている。
70年代は、わが国ではフランス映画の低迷時代で、ベルモンド作品もあまり見られず、フランスの娯楽映画の真の姿に接することができなかったことは悔やまれる。そのような意味で、今回の「傑作選」の企画は貴重な機会と言える。




(文中敬称略)

《了》

映像新聞2021年5月3日掲載号より転載

 

中川洋吉・映画評論家