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『彼女たちの革命前夜』
「女性権利獲得運小津」を扱う英国映画
ミスコンをターゲットに活動
3人の若い女性を軸に物語が展開

 英国から、「女性権利獲得運動」を扱う作品が公開を待っている。『彼女たちの革命前夜』(2019年/フィリッパ・ロウソープ監督、脚本:ギャビー・チャッペとレベッカ・フレイン、製作・英国、107分、原題:「MISBEHAVIOUR」〈不適切な行為〉)である。主要スタッフは、女性で固めている。

活動家たち   (C)Pathe Productions Limited, British Broadcasting Corporation and The British Film Institute 2019    ※以下同様

落書きをし警官から逃げる2人

ミスたち 前段中央ジェニファー

デモの準備をする活動家

化粧室のサリー(左)、ジェニファー(右)

活動家たち

コンテスト前のミスたち

司会者のボブ・ホープ

会場内のデモ

有色人種のミス、ジェニファー

舞台背景

 時代は、52年前の1970年に設定されている。舞台はロンドン。この時代には既に婦人参政権が施行され、なぜ今さら女権運動を取り上げるのか。また、この運動に加わった若い女性たちの活動が、なぜ「不適切な行為」とされたのか、最初は疑問に思う観客は多いはずだが、それは作中で徐々に解き明かされる。    


牽引役の3人の女性

 物語は3人の若い女性を軸に展開される。1人目は、シングルマザーの現役大学生サリー(キーラ・ナイトレイ)、2人目はジョー(ジェシー・バックリー)で、女権獲得論者の旗頭である活動家。
そして3人目は、美人コンテストに有色人種として初めて出場が許可される、カリブ海の小国グラナダ代表のジェニファー(ググ・バサ=ロー)で、肌の色が浅黒い美女。



ミス・コンテスト

 
世界中、ミス・コンテストは数え切れぬほどあり、その中で「ミス・ワールド」、「ミス・ユニバース」、「ミス・インターナショナル」が世界三大コンテストとされ、現存する。
物語では「ミス・ワールド」を扱い、実話に基づいている。このコンテストは1951年に設立され、テレビの世界的普及で人気番組となり、世界中の美女たちが多くの視聴者の目を釘付けにする。人気番組だけに、米国の喜劇俳優ボブ・ホープ(グレッグ・キニア)が司会を務めていることでも知られる。
しかし、1969年までは白人しか出場資格がなく、人種差別廃止の世界的風潮に押され、ようやく有色人種にも翌70年に門戸が開かれた。そこで登場するのが、ジェニファーのような色の浅黒い魅惑的美女の参加となる。



反美人コンテスト論者

 女性が、見た目の美しさで品定めされ、モノ扱いされるコンテストに反対する若い女性活動家の一団が声を上げ始める。
「女性への性差別」に真っ向から闘う彼女たちの行動、運動として現在まで続き、いまだ存在する女性への不当な扱いへの怒りであり、「#MeToo運動」の源流となる。



サリーの場合

 最初に現われるのがサリーである。彼女はロンドン大学歴史科を受験し、毅然とし、理智的な風貌で試験官と向き合う。おそらく教授たちであろう試験官は、きりっとし長髪美人の彼女を見て、メモに数字を書き、隣の試験官に合図する。女性の品定めである。
1970年の著名大学の教官がこのありさまで、当時の社会風潮を現わす一場面である。まず、彼女への質問、「なぜ、英国では革命が起こらなかった、その理由」、それを受けて彼女は見事に切り返す。「なぜ、革命は失敗したのかの問いに、質問を変えねばならない」と、試験官もタジタジの応答。サリーの一本勝ちだ。
続けて、彼女への個人的質問。「なぜ、15歳で学業を放棄したのか」について、彼女は「母親は昔流の人間で女に学問は必要ない」との意見に従ったこと。その間結婚、出産し1児をもうける、シングルマザーだ。さらに、成人後、もう一度勉強をし直すためにロンドン大学に出願した経緯。自らのシングルマザーの立場、学業への情熱など説明し、無事合格。彼女の新しい人生が始まる。
1970年、英国でも「女性に学問は不必要」の風潮が存在することは、ちょっと驚かされる。ちょうど、わが国における「女子に高等教育は不要で、高卒か短大で十分」の考え方と似ている。



フェミニズム

 本作の中で、学究肌の主人公サリーの周辺、ジョーを先頭にする4人組は、フェミニズムの活動家で、闘う意志満々である。
フェミニズムとは、歴史的に見て、19世紀末から20世紀前半に欧米で起き、参政権、相続権、財産権など公的な領域や法制度に対しての権利を求める運動である。この運動により、政治や行政に女性が参加する権利が勝ち取られた。
その後、20世紀に入り、1960年代、70年代の世界的反乱の季節、フランスの5月革命、米国の学生の反乱、日本の全共闘の抗議運動などが該当し、女性解放運動のうねりとなる。その1970年に本作は焦点を当て、女性の政治的権利のみならず、社会や経済、または、性的な自己決定権の要求などが盛り込まれる。
筆者が間近で見聞きしたフランスの5月革命では、従来の家父長制度を批判し、縦の人間関係が横へと変わり始める。一例として、女性の大学進学の劇的増加である。「女はスッコンデロォ」、「女に教育は無用、花嫁修業をしっかりやれ」の世界に変化が現れる。
前世紀から運動の最重要な要求は、「同一労働同一賃金、保育、教育機会の均等」である。建前としての制度はそろうが、内容的には不十分で、70年のロンドンで、新旧の世界の激突の状況を描くところが、本作の伝えるべき点である。





女性たちのターゲット

 ジョーをはじめとする彼女たちは、直接行動を念頭に秘策を練り、女性をモノ扱いするミス・コンテストにターゲットを絞り、デモをかけることを決める。
意気軒昴(いきけんこう)な活動家たちと対照的なサリーは慎重派で、いま一歩踏み出せない。ちょうど、別の活動家グループがトラック爆破事件を起こし、厳戒態勢中でもあった。





計画の実行

 最終的には、勢いに乗る実力行使派の主張どおり、彼女らは一般観客としてミス・コンテスト会場へ潜り込み、ひと騒ぎを狙う。
司会は喜劇俳優のボブ・ホープで、保守派の彼は左派嫌いで知られる人物である。ベトナム戦時中の彼の慰問は頭抜けて多いことでも有名。





ミスたちの本心

 世界各国から美女が集められるが、本命は白人のスウェーデン代表で、マスコミも有色人種ではなく、従来の白人美女に群がる。有色人種の女性は、審査員、視聴者の視野には入っていないのが実情だ。
コンテストの当日、カリブ海のグラナダ国から参加のジェニファーとサリーは化粧室で一緒になり、初めて2人は言葉を交わす。ジェニファーはこのコンテストを足掛かりに、テレビ業界にポストを見つけたい希望がある。他に本命視されるスウェーデン代表は、ミスの賞金で大学進学の夢を語る。
彼女たちにとり、コンテストは飛躍の足掛かりで、何としても賞金と名誉が欲しいところ。女性をモノとして扱うコンテストでも、それなりの効用はあることが述べられる。彼女たちの希望には理があり、それぞれ事情があることが明かされる。
栄冠はグラダナ代表のジェニファーに落ち着く。女性の地位向上を目指す意識の高い女性と、従来の見方を守りたがる保守、一般市民との対立から、女性の地位の在り方を追求するのが『彼女たちの革命前夜』だ。歯ごたえのある作品である。
後日談だが、サリーは母校ロンドン大学の近代史の教授、ジェニファーはテレビ界入りはせず、カナダ駐在の高等弁務官、そして、運動の旗振り役のジョーは助産師として、いずれも実在する。





(文中敬称略)

《了》

6月24日、kino cinema横浜みなとみらい、kino cinema立川高島屋S.C.館、kino cinema天神 他全国順次公開

映像新聞2022年6月20日掲載号より転載

 

中川洋吉・映画評論家