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『最高の花婿 ファイナル』
フランスの国民的ヒット映画の第3作
4人の娘に国籍の違う婿たち
全面に押し出す異文化知る面白味

 世の中、お笑いと称し、どこがおかしいのかと思わすことがあり、「もう少し人を笑わせたいなら頭を使えよ」と言いたくなる"エセお笑い"が氾濫している。その中にあり、笑える映画作品がある。最近では『最高の花婿 ファイナル』(2022年/フィリップ・ドゥ・ショーヴロン監督、ギィ・ローラン脚本、フランス、フランス語、98分)がそれである。

シャンボール城をバックの一族
 (C)2021LES FILMS DU PREMIER - LES FILMS DU 24 - TF1 FILMS PRODUCTIOn ※以下同様

クロード夫妻と次女

娘婿たち

三女と婿

アフリカからの四女の婿の両親

婿同士の争いと和解

三女夫妻

移民

 舞台は、移民大国フランス。移民の多さについては、日本への一時帰国の際に街を行く人の80‐90%が日本人であることに驚いた。フランスでは、街中で黒人、アラブ人、中国人などが多い。この辺りに、移民社会フランスの特殊性がうかがわれる。
統計的に、2023年でフランスの人口は6527万人(日本は2月時点で1億4760万人=総務省統計局)である。
フランス在住の移民は、欧州勢ではポルトガル、スペイン、イタリアが多い。また、アフリカ勢では、アラブ国家が3カ国(旧植民地のアルジェリア、モロッコ、チュニジア)で、アジアではトルコ、そして、旧仏領インドシナのベトナム、ラオス、カンボジアが移民送り出しの主要国である。
全体的に見るならば、移民は541万人、その内フランス国籍を取得した移民は279万人、国籍を取得しない移民は262万人で、彼らのうち約半数が、フランスで暮らしながら、フランス国籍を持たず長期のビザで滞在、税金を払っている。
定住の外国人は372万人、その内フランス生まれの外国人が109万人である。伝統的に旧植民地のアルジェリア移民がその代表格であったが、近年は、アフリカの政情不安もあり黒人数が増えている。また、世界的傾向として、中国人も少なくない。 
  


物語の前段

 本作は好評に次ぐ好評で、3部作となる経緯がある。第1作『最高の花婿』(14年)、第2作『最高の花婿 アンコール』(19年)、そしてラスト第3作『最高の花婿 ファイナル』(22年)があり、第1作は5人に1人のフランス人が見たとされる、国民的ヒットとなる。
また、3作目は、2022年フランス映画興行収入ナンバーワンを達成し、柳の下の2匹、3匹目のドジョウ的企画である。
本作は、いかにもフランス人が好みそうな素材から成っている。



ハナシの大枠

 
3作とも作りは共通するものがある。典型的な家族モノで、金持ちの両親は広大な館に住み、周囲に4人娘の婿がそれぞれ居を構える。その4人共国籍が異なり、その違いで色々と問題が起こる。
彼らの国籍はアラブ、イスラエル、中国、コートジボワールであり、毎日が異文化バトルだ。
一家の長は地方に根を張る豪農出身(あるいは豪商)で、自分の周りに子供たちを置き、一安心というのが父親クロード(クリスチャン・クラビエ)である。
彼は、持て余す時間を利用し、現在は政治小説を執筆中。朝の散歩の途中、なじみの書店兼カフェで自著の売れ行きを訪ねるのが日課。今朝も売り行きゼロ。この状態が3年も続いている。



婿夫婦の面々

 街角で、次女の夫イスラエル人ダヴィドを目にするクロードは、建物の陰に隠れる。ダヴィドは事ある度にユダヤ教の朝の礼拝に誘う。しかし、クロードはクリスチャン保守派で、ユダヤ教の花婿をいつも避ける。
次いで四女の夫黒人のシャルルと顔を合わす。次女の婿の彼はコートジボワール人の演劇人。次の公演で、黒人のキリストを演じるので見に来て欲しいと誘う。黒人のキリストとはクロードにとりお門違い。何とか、用事にかこつけて辞退。長女の夫アルジェリア人のラシッドは弁護士でイスラム教徒。何かとクロードとソリが会わない。3女の夫、中国人のシャオは銀行員で、唯一のアジア系。3女は画家で、展覧会での自作の発表を控えている。シャオ1人浮いている感じ。
妻たる4人の美人娘は亭主にゾッコンの様子。父親のクロードは異国籍の4人の花婿には不満だが、娘可愛さで結婚を承認。渋々の態である。



シノン市

 一家の住居はシノン。名城が連なるロワール川沿いの城壁が偉容を誇る。もう1つ、シノンを有名にしているのは、1981年のフランス大統領選で当選したフランソワ・ミッテランの選挙区でもある。もしかしたらショーブロン監督の革新系大統領ミッテランへのオマージュかもしれない。




仇敵相まみえる

 世の中、仇敵(きゅうてき)とされる人々はいるが、有名なのは、アラブとイスラエルの確執がある。
本作における両者の塀の境界線騒動は、程度の低さで笑える。アラブ人は勝手に隣家のリンゴの枝を邪魔だとばかりに切り落とす。黙っていないイスラエル側は塀を立て対抗。次元の低い争いだが、当事者たちは激しく自説を強調する。




サプライズ・パーティー

 両親の結婚40周年祝いを、4人娘に押し切られる形で仲の悪い婿たちは催すことになる。アフリカ組、中国組の両親たちは遠路はるばる駆けつけるが、ここでも文化の違いが顔をのぞかす。
ガーデン・パーティーのバーべキューで、互いの料理を非難し合う。互いにお国自慢のデザートを作るが、砂糖の入れ過ぎで口論(アラブ菓子の甘さは並でない)となる。
最後に、1人のドイツ人絵画コレクターがパーティーに紛れ込み、三女セゴリーンの絵画を褒めちぎり、彼のニューヨークの画廊での展覧会を勧める。この幸運に彼女はテンションが上がる。
しかし、彼の狙いは、若い娘ではなく、クロードの妻のマリーがお目当てであった。ごちそうをめぐり、色恋が火花を散らし、その上、多民族間の摩擦が湧き上がる。普段なら談笑で丸く収まることも、異文化とのふれあいで物事があらぬ方向へと走り出す。ここが多文化接触の面白さであり、見ドコロだ。



フランスの異文化観

 フランス人は「我われこそ文化の中心にいる」と信じている。例えば、イタリア人は「ジェスチャーが多い」、ベルギー人は「一寸バカ」、英国人は「料理がまずい」など。近隣諸国より明らかに文化的優越感を持っている。本作は、フランス人がそのように他国民を見ているかがよく分かる。
主人公のクロードを裕福な人物と設定、一般的フランス人の役割を担わす。これも本作の大きな狙いだ。
異文化問題については、必ず移民に関する意見を入れ込んでいる。そこで作り手としては、移民を貧しい階級の人々と扱わず、意図的にワン・ランク上の階級を対象としている。
ここに爆笑コメディーに仕立てる理由が見て取れる。もし、貧しい階級であれば、コメディーでなく、社会モノになり得る可能性がある。
本作は、視点を一歩引いて異文化及び人種を描き出す手法を取っている。そして、異文化を知る面白味を前面に押し出す効果を狙っている。
その考察が本作の伝えたいことである。






(文中敬称略)

《了》

4月8日より新宿K's cinemaほか全国順次公開

映像新聞2023年3月6日掲載号より転載


中川洋吉・映画評論家