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『青春18x2 君へと続く道』
台湾と日本を舞台にしたラブストーリー
18年前の出会いと突然の別れ
思い出を胸に彼女の故郷へ旅立つ

 日台合作のラブストーリー『青春18x2 君へと続く道』(2024年/監督・脚本:藤井道人、原作:ジミー・ライ「青春18x2 日本慢車放浪記」、カラー)は、看板通りの青春恋愛ものだが、異郷の奥深さの違いが本作の見どころである。

 
登場人物は、日台両国の若い俳優が務める。主人公ジミーは、台湾で人気のシュー・グァンハン(彼は先ごろアカデミー賞長編アニメ映画賞を得た宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』のアオサギの吹き替えを担当)である。女性主人公アミは清原果耶が演じ、アジアの若い女性のハツラツとした姿を見せている。
魅力的な取り合わせで、この配役であれば、大甘なラブストーリーとしても無理なく見られるのではなかろうか。

ジミー(右)、アミ(左)
 (C)2024「青春 18×2」Film Partners   ※以下同様

カラオケ店の人々

市内の2人

最初の出会いの頃

雪山の日本、ジミー(左)

ジミー

アミ

アミ

図書館の2人

事の発端

 台湾人のジミーは大学卒業後、いわゆる起業家として同級生と一緒にゲーム会社を立ち上げ、成功を収める。この彼、あまりに突っ走り過ぎ、社内で浮いてしまい、挙句の果てに社長職を解任される。
物語はこの解任劇から始まる。最初の画面はアップの彼の後ろ姿で、会議室内の人々は徐々に部屋を去る。孤立無援状態である。
ここで、彼の次の行動が待たれる。再起を期してもう一度立ち上がるのか、ゲームの世界から去るかである。彼の取る行動は前記の2つの道ではなく、旅に出ることとなる。 
  


帰郷

 失意の彼は、家族のいる出身地の台南市へ戻ることを選ぶ。父親は彼が今まで目いっぱいに走り過ぎたことを突き、ここで一休みしてみてはと助言する。すなわち「人生にゴールはなく、今は一休みの時期」と彼を励ます。
この「人生にゴールはない」の一言、主人公ジミーにも、アミにも通じる言葉で、作品内で大きな底流となっている。



2人の出会い

 
18年前、18歳の高校生だったジミーは夏休みの間、台南市のカラオケ店でバイトをする。そこに日本からのバックパッカーのアミが現われる。
用件は就職依頼だ。何でも、旅の途中財布を落とし、一文無しとのこと。この店で、住み込みで働きたいという。従業員4、5人の店、夏休みは書き入れ時であり、即刻採用。彼女には一室を当てがわれ、食事付きの住み込みバイト成立である。
アミはとにかく明るく、他の従業員の受けもよく、おまけに、若い女の子ということで、男性客も増える。このカラオケ店でジミーとアミは知り合う。ジミーはアミに一目ぼれ。不器用な彼、なかなか思いを伝えられない。よくあるハナシである。



台湾の気候の良さ

 
南国台湾は気候が良く、爽やかな風が吹き抜けているようだ。
作品の主要舞台、台湾自体、過ごしやすく、これは映画を見ていても分かる。ゆったりした生活のリズム、気の善い台湾の人々、繁華街の喧騒などすべてが心地良く感じられる。
藤井監督は、この台湾の良さをうまくすくい取っている。同監督の祖父が台湾出身であり、より一層台湾の味が施されている。




アミの特技

 
アミは絵がうまく、「自分にしか描けない絵を描きながら旅をして回るのが夢」と語る。
彼ら2人の重要な思い出が、郊外で開催される阿里山のランタン祭りである。彼女の要望で2人は祭りを見に行く。テレビの旅番組でも見たことのある夏の風物詩で、大きな紙風船を飛ばす風景は2人を喜ばせる。
また、仕事後の映画鑑賞。選ばれる作品は岩井俊二監督の『ラブレター』。アミは初見でえらく感動した様子。




雪の只見

 
シーンは現代に戻る。ジミーは暑いくらいの台湾を離れ(正確にはジミーが自分の作った会社を追い出された時に)、日本へ旅に出る。18年前に別れたきりのアミに会いたくて彼はわざわざ1人でアミの故郷である、福島の只見町にやって来る。台湾と只見の対照的な風景が、作品に色を添える。
台湾と違い、わざわざ雪深い只見を選ぶ当たり、うまい選択だ。台湾では決して降らない雪景色である。アジアでも東南部は雪とは全く無縁で、彼らにとり、冬の雪は観光的には特別の意味を持つ。
例えば、東南アジアからの旅人は、大はしゃぎで雪合戦に興じる図は珍しくない。暖の台湾、雪の日本との対比は悪くない。
余談ながら、もう一例を挙げるなら、ジミーの列車旅行中のことである。日本に到着し、アミの故郷、只見へ行く途中、車内が突然真っ暗闇となり、20秒後に一面の雪景色が目の前に広がる場面である。川端康成の小説『雪国』からのイタダキ。藤井監督のアソビだろう。




台湾での別れ

 
18年前、カラオカ店のアミが突然辞めると言い出す。どのような事情からなのか、彼女と親しくする従業員全員が、真意が分からず驚く。別れ際、彼女は各人の似顔入りの絵はがきを渡す。置いてきぼりのジミーも驚くが、アミの決心は固い。



1枚の絵はがき

 
その後、高校生のジミーは本格的受験勉強を始め、難関台北大学への入学を果たす。やがてゲーム会社で成功し、独走し過ぎで解職となる。
帰郷し、気を取り直すが、その時に、アミから昔受け取った1枚の絵はがきを見て、若かりし頃の自身を思い起こす。18歳のジミーがそこには存在していた。




結ばれない愛

 
福島県の雪深い只見に降り立つジミーは、町の人と言葉を交わすが、その何人かはアミを直接知る人々であった。ジミーはアミへ電話をかけると、元気そうな彼女の声が返ってくる。
2人は、夢を果たしたら再会することを台湾で誓うが、しかし、アミからは未だ果たされてないから会うのは無理と告げられ、彼はやむなく再会を断念する。彼女は不治の病にかかり病床でジミーからの電話を受けたのである。本作は、難病ものに仕立てず、あっさり引き下がる段がすっきりしている。
本作における日台の違い、結ばれない男女の愛は終止符を打つが、これが、台湾の風のように爽やかである。藤井監督の淡々とした語り口に、彼の才能が現われている。彼の社会派作品『新聞記者』(2019年)の成功で、中堅監督の中に入る演出者としての幅も感じさせる。
この恋愛ものの描き方の軽さがラブストーリーの身上であり、見ていて清々(すがすが)しい。








(文中敬称略)

《了》

5月3日より TOHO シネマズ 日比谷ほか全国ロードショー

映像新聞2024年4月1日掲載号より転載

 

 

中川洋吉・映画評論家