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『違国日記』
若い叔母と両親を失った姪が共同生活
世代のギャップを面白く演出
没交渉状態だった2人の関係描く

 見ていて「このような若者の描き方もありか」とうなずかせる作品、『違国日記』(2024年/瀬田なつき監督・脚本・編集、日本/原作:ヤマシタトモコ、139分)が待機中である。物語の主人公2人は姉妹ではなく、若い叔母と姪(めい)であり、2つの世代のギャップを扱うところに面白みがある。

 
クレジット・タイトル前に、事件の概要が提示される。1人の少女「朝」(早瀬憩)が、駅前でソフトクリームをなめながら人待ちの様子。そこに現われるのが彼女の母親で、手を振り待ち受ける。その隣りにいるのは父親で、一瞬姿を現わす。
次の場面、走るトラックが現われ場面が変わる。何事かが起きるが、何であるかは皆目見当がつかない。
突然、喪服の一群が写し出され、ここで朝の両親の葬式だと分かる。朝は一瞬にして一人ぼっちとなり、彼女自身、何が起きたのかよく理解できない。
葬式の席では、数人の親戚の女性たちが「あの娘は、これから親戚をたらい廻しされる」と、心ないうわさを口にし、そばにいる朝を傷つける。思いやりのない仕打ちだ。

槙生(左)、朝(右)
 (C)2024ヤマシタトモコ・祥伝社/「違国日記」製作委員会

帰途の主人公2人

執筆中の槙生

恋人同士 槙生(左)と笠町(右)

親友同士 槙生(右)と奈々(左)

入学式 朝(右)と同級生

マンションで、朝(左)と槙生(右)

後見人手続きの弁護士(左)と槙生

料理指南の奈々(左)と朝(右)

ラストシーン 槙生(左)と朝(右)

手造り餃子の夕食 槙生(左)、朝(中)、奈々(右)

学校帰り 奈々(左)、槙生(中)、朝(右)

朝の友人の訪問、そっと見る槙生

談笑中の槙生(左)と朝(右)

葬儀

叔母「槙生」の登場

 式場には1人の中年に近い女性槙生(まきお)(新垣結衣)も出席している。一人ぼっちの朝を見て、思わず彼女に向かい一言「あなたを愛せるかどうか分からない。でも私は決してあなたを踏みにじらない」と宣言、「これからあなたを私の家へ連れて行く」と朝に話しかけ、彼女も槙生に「行く」と応じる。    


女性2人の関係

 年かさの槙生は、朝の叔母。槙生の姉(朝の母親)とは犬猿の仲で、朝とは実質的に葬式で初対面。この姉妹の不仲の訳が軸となり、2人がいかにして絆をつなぐかがハナシの骨子となる。
槙生は、独身の絵本作家、天真爛漫(らんまん)の朝は15歳の中学3年と年齢差があり、また、過ごした生活環境も異なる。2人は違う世界を生きてきた。



槙生のマンション

 
葬式の席で、朝を引き取ることを宣言する槙生は、「勢い」から出たことと述べるが、槙生のおとこ気も大いに関係している感がある。同居の提案も、あっという間に受け入れる朝にも、誰かに頼りたい気持ちがあったに違いない。
葬式後、2人は槙生のマンションへ行く。小柄な朝は肩に大きな荷物を掛け、槙生の後をチョコチョコついて歩く。この光景、親鳥に小鳥が付いて歩くようで、かわいくもあり、滑稽でもある。
作中、このような場面を目にするが、原作者ヤマシタトモコか、監督瀬田なつきのセンスか、とにかく、作品におかしみがある。
マンション内は玄関の入り口から散らかり放題で、朝は肩から掛けて運ぶマットレスを敷く場所もやっと探すありさまだ。この散乱ぶりに槙生の生き様が出ている。知的な職業の小説家で、頭も良くルックスには自信があり、家事は大嫌い。そして若干男っぽい性格だが、男性とも積極的に親しくしない。とっつきの悪い女性である。
仕事部屋の机の横にある、一畳ほどのすき間に陣取る朝は、疲れがどっと出たのか、すぐに寝入る。翌朝、槙生が起きると、セーラー服姿の朝が顔を出す。この時、いつもは1人の彼女が急な同居人である朝の出現で、取り乱す場面も笑える。槙生は大家のはずなのに。
出掛けのあいさつを交わし、朝は登校するが、何とその日は卒業式とのこと。さらに驚く槙生。槙生自身も想定外の事実ばかりで慌てる。
朝は1人で登校したが学校では彼女の友達が、両親の交通事故を教師に話してしまう。普通の一生徒として卒業式に出るつもりの朝は、両親の事故は伏せておきたかったが、全校中に知れ渡り、怒りのあまり校門を飛び出す。朝にとっての卒業式はなしとなる。



ピクルスの味

 
元々、朝の母親と仲の悪かった槙生は、幼い頃から没交渉状態であった。2人で訪れた朝のマンションを片付けると、冷蔵庫から古いピクルスが出て来る。槙生はピクルスの酸っぱさが苦手で、やっと最近食べられるようになる。
朝は、自分たち2人もピクルスの好みの変化のように、もっとコミュニケーションが取れればと願う。
実際、2人の関係はあまり前へ進まない。槙生の反応は、若い女の子の相手で、年長でもあり、戸惑っている様子。




餃子を作って

 
ある日、槙生の元へ中学以来の女友だち、醍醐(夏帆)が遊びに来る。2人の大人の存在は、朝にとりどこか男性同士の友人関係を思わす。彼女たちが女性なのに、男性言葉を使い、笑いを取る段に至っては相変わらずおかしい。
朝が槙生の男友達、笠町(瀬戸康史)の存在が気になり、2人の間柄について尋ねると、槙生は「秘密じゃ」とふざけて朝の追及をかわす。
このように、原作者か脚本を兼ねる監督かによる女性らしからぬお面白さを、2人でぬけぬけとやってみせるあたり、作品が弾み楽しくなる。
この時、女性3人の1人が夕飯の献立に餃子を提案、しかもみんなの手作りという条件で。この餃子の会食は、槙生と朝の膠着(こうちゃく)状態の関係を緩やかにこじ開ける効果が見て取れる。




日記の存在

 
ある時、2人の共同生活を心配し、槙生の母で、朝の祖母に当たる京子(銀粉蝶)が顔を出す。その時に、朝の亡き母が残した日記を置いていく。
槙生は、いったんそれを預かるが、いつ渡すか考えこむ。朝としては何で直ぐに渡さないのかと怒り、大事な試験を無断で欠席してしまう。





朝の学校

 
中学を終えた朝は高校に進学し、毎日を楽しく送る。しかし、ある時、両親の話が出て、彼女は交通事故で彼らを亡くし、一人ぼっちであることを積極的に級友に話す。
この時は笑顔で振る舞うが、見ている方は「無理をしている」と感じてしまう。演出の意図なのか、無作為の芝居かははっきりしないが。




槙生のボーイフレンド

 
独身の槙生は学生時代からの男友達、笠町がおり、以前は恋愛最盛期の頃もあったが、現在は良いお友達関係となっている。2人は何かあれば電話を掛け合うが、ここ数年、槙生は積極的に動かず、途絶え気味。男性の方は「俺に頼れ」とはっぱをかけるが、女性がすんなりと乗ってこないのが現状。
この2人の関係を見て、朝は大人の恋愛とはどういうものなのかと興味を持ち、いろいろ質問をするが、いつもはぐらかされ通し。このように、難しい槙生に近付きたい10代の少女による好奇心の顛末(てんまつ)が作品の見どころとなる。
ラストは2人で祖母(あるいは母)の海辺の家を訪ねる。朝が、自分の両親をもっと好きになって欲しいと槙生に語り掛け、年長の槙生が10代の朝の希望に沿うところで終わる。
本作の登場人物の中心にいるのが朝で、10代の少女の行動を通し、大人の世界へ踏みこもうとする様子は、見ていて爽やかである。見て決して損はしない。
なお、原作はヤマシタトモコの手になる2017年から23年にわたり、ヤング女性向けマンガ雑誌「FEEL YOUNG」で連載された『違国日記』(祥伝社)。単行本の発行部数が180万部のヒット作で、数々の賞を受ける。宝島社の『このマンガがすごい!2019』では、「オンナ編」で4位に入っている。






(文中敬称略)

《了》

 

6月7日より全国ロードショー

映像新聞2024年6月3日掲載号より転載

 

 

中川洋吉・映画評論家