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『グラン・シェル』
異色の新人・畑明広監督が初長編
仏作品として映画祭コンペに出品
巨大都市建設現場描く社会派ドラマ

 「第26回 東京フィルメックス」が11月21―30日、都内の有楽町朝日ホールなどで開催された。お笑いタレントのビートたけし(北野武)が所属していたオフィス北野(現TAP)が立ち上げた小規模の映画祭であり、同プロダクションの市山尚三(現東京国際映画祭プログラミングディレクター)が、初回から21回までディレクターとして奮闘し、ここまで続いている。今回、コンペ部門にフランスで映画を勉強し、監督として一本立ちした畑明広の長編第1作、フランス作品としてコンペ部門に『グラン・シェル』(英語タイトル"The Site")を携えて登場した。

「グラン・シェル」      

畑明広監督


異色の新人監督 畑明広

  畑明広(1984年生まれ)は異色の新人監督で、フランスの政府給費留学生試験に合格し、2006年国立映画学校「La Femis」(フェミス)の映画科に日本人として初めて入学し、2010年に卒業する。現在もパリ在住で、在仏は24年に及ぶ。

  映画への関心が深いフランスは、戦時中の1943年に「IDEHC」(イデック・映画高等学院)を創立、1998年に改称し「フェミス」となる。現在はモンマルトルの旧パテ・スタジオ跡を本拠としている。イデック時代には旧岩波ホールの高野悦子、映画評論家・山田宏一が在籍、改称後のフェミスでは畑明広が初の日本人留学生の卒業生となる。いわばフランス育ちの日本人映画監督である。

  初監督作品『グラン・シェル』(高い天井の意)は社会性が強く、新人監督らしからぬ、ゴツゴツした肌合いの作品だ。

  物語は、建築現場を舞台としている。そこは未来志向の巨大な複合施設「グラン・シェル」であり、主人公のヴァンサンは夜間工事現場の労働者である。

  この建設現場は多くの移民労働者が働いている。ある日、同僚の作業員が行方不明となり、現場主任が事故を隠蔽(いんぺい)しているのではないかと、労働者たちは疑念を抱く。その後も別の労働者が姿を消していく中で、彼らは団結し、仲間の失踪の謎を解明しようとする。

  フランス映画が得意とする一分野に、労働者や労働組合を扱うジャンルが見受けられるが、本作もその範ちゅうに属する。この作品、フランスの未来型都市開発現場を舞台に、労働者の過酷な現実を冷徹な視線で描き出す社会派ドラマとして幕を開ける。巨大コ0ンクリートの塊の中で労働者は働くが、巨大資本(日本で言えばゼネコン)と労働者との対比が鮮やかに描かれ、作品の強さにもなっている。

  暗い画面だが、何層にも重なる画(え)作りは画面に変化をもたらし、相当なテクニックを駆使しての撮影の技がさえる。この社会派ドラマに畑明広監督は、異なる味付けを施す。

  この辺りが、通り一遍の労働者ものとは異なり、独自の画作りとなる。他の若い監督とは違う感覚をぶつけて立体感を出すために、ジャンル映画の要素を入れることを試みている。



作品製作について

 フランスでの公開は2026年1月21日に確定し、観客動員の目標は50万人(アート系作品で50万人の観客を集めることはなかなか難しいと言われる)。上映館数予定はフランス全土で100―150館を目指している。

  製作費は500万ユーロ(邦貨約9億円)で、その内テレビ局の出資が 40万ユーロ、さらに公的資金(映画に対する助成)100万ユーロが含まれる。新人監督がこれだけの額を調達できたことは驚きである。何ともうらやましい助成制度であり、フランスの映画文化の社会浸透ぶりは、さすが映画大国フランスとの思いを強くする。

  本作、日本での公開は未定で、現在いろいろコンタクト中であるという。

  東京フィルメックスのコンペ出品で、賞に漏れたのは残念だが、次回作が楽しみな出来である。日本での合作の企画、是非ともやりたい意志があり、今後、畑監督の名を目にする機会が増えるであろう。






(文中敬称略)

《了》

「グラン・シェル」映像新聞2025年12月22日掲載号より転載

 

中川洋吉・映画評論家