「プルミエール誌
7月号」
フランスの映画雑誌「プルミエール誌」は、所謂、スター中心ではなく、一般的な映画雑誌と言えましょう。
高踏的な「カイエ・デュ・シネマ」とは一線を画し、もっと対象を広げております。
発行部数は30万部で、フランスで一番の映画雑誌です。
この雑誌に「カンヌ映画祭2008」のフランス映画について寄稿いたしました。
日本、ロシア、アメリカのジャーナリストに感想を求めたものです。
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プルミエール 2008年7月号 カンヌ映画祭特集
109ページ 「今年のカンヌ映画祭」
今年のフランス映画のラインアップについて、私どもの友人である外国プレスの意見
〔外国プレス:中川洋吉、アンドレイ・プラコフ(露)、スコット・ファウンダス(米)〕
中川洋吉のカンヌ映画祭2008年評
自己満足の終焉
今年の映画祭直前に審査委員長のショーン・ペンは「社会性抜きに、コンペ作品の優劣を決めるわけには行かない」と既に賞のあり方について発言している。しかし、誰がロラン・カンテ監督の「クラス」のパルム・ドールを予想したであろうか。ジャーナリストの誰一人もこの結果は予想していなかった。
ここ数年、パブリックとメディア(映画ジャーナリズム)の評価に乖離が目立つ。
フランスの映画メディアの一つの傾向として"カイエ・デュ・シネマホリック"現象がある。このエコールが指向する作品群には難解さと自己満足の色が濃い。この傾向が、フランス映画を21年間パルムドールから遠ざけた。
フランス映画について
ロラン・カンテ監督の"Resource humain"を見て以来、彼の社会性に注目した。
「クラス」では、教室での教師と生徒の丁々発刺な議論が炸裂するが、この対話こそ教育の原点であろう。
扱うテーマは普遍的で、双方のコミュニケーションこそ「クラス」に生彩をもたらせている。更に、教師の熱意と生き生きした生徒の描写には胸を打つものがある。
この作品が早く日本公開されることを望みたい。
「クリスマス・テール」
アルノー・デプレシャン監督作品はしっかりしており、品格を備えている。テーマは家族間の反目であり、祖母(カトリーヌ・ドヌーヴ)がこの大家族の中心的存在となっている。ドヌーヴの威厳はいつも通りで、彼女は役を充分にこなしている。
「クリスマス・テール」は見応えのある作品ではあるが、現在、我々の周囲に起きている現実の問題に立ち向かう姿勢を欠いている。
「フロンティア・オヴ・ドォーン」
筆者はなぜこの作品を撮ったのか、その意図が理解できない。監督のフィリップ・ガレルは異能なアヴァンギャルド作家で、抜群の映像感覚の持主である。彼はヌーヴェル・ヴァーグの直系で、スタイリッシュな映像表現に秀でている。しかし、今回は彼のその観念的イメージのため、審査員は高い評価を与えなかったのであろう。
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