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コンペ選考に日本作品3本

既報の通り、「FIPA2006」では、日本からは3本が本選選考作品となった。昨年は29本がエントリーし、本選選考は1本だったが、今年はエントリー数も39本と増加しており、多くの作品をぶつけて、いろいろな可能性を試すのも一考との確信を得た。これまで本選に選ばれた日本作品は、通常1本、時には全くない年もあり、今年の3本は健闘と言える。今後は、エントリー数をコンスタントに50本くらいにし、本選で数本を狙う戦略が考えられる。日本に於けるFIPAの知名度は、他のテレビ映像フェスティヴァルと比べて低い。そこでFIPAは、作品の質で勝負する欧州一のフェスティヴァルであるイメージを広げ、定着させることが望まれる。そのためには、日本からもっと多くのエントリーが必要だ。

◆中国からの大挙来訪

(C)NHK

アジアからのエントリーでは、中国の作品数が最も多く、今年も75本あった。中国は、欧州におけるドキュメンタリー作品の発表を、FIPAに求めている節がある。昨年は、文化関係官庁の大ミッションが来訪し、今年も北京ドキュメンタリー連盟の一行32人がビアリッツ入りした。

初日の1月24日、メイン会場カジノのロビーは、中国人で占拠された感があった。翌日には、そのうち5人を残し、ミッションの一団の姿は消えた。事務局側は「パリへ観光でも行ったんだろう」と話した。昨年もそうだが、中国からは大人数の一団がやって来て、一晩で消えてしまう。外国渡航が難しい国情のためか、滞在中は目いっぱい動いている様子がうかがえる。

今年は、韓国に異変が起きた。前へ前へという積極性を常に見せる国から出品が無かったのだ。常に、日本より出品数が多い韓国が0本とは、驚かされた。
プレ・セレクションのため、毎年、訪日の際に釜山映画祭に立ち寄るジャン=ミッシェル・オセーユ事務局長によれば、「昨年の釜山映画祭で40作品を見たが、興味ある作品が1本もない。劇映画では韓流ブームと騒がれているが、ブームに陰りが出はじめ、テレビはそれを先取りしているのではないか」とのことであった。

韓国テレビ界の不作の年であったことは確かなようで、それが原因でFIPA出品意欲も後退したと推測される。

日本作品、『“大地の子”を育てて−中日友好楼の日々−』(ルポルタージュ部門、佐藤俊彦、斉藤賢治/NHK)、『ひとり団地の一室で』(ルポルタージュ部門、松木秀文/NHK)、『にがい涙の大地から』(ドキュメンタリー部門、海南友子)の3本が選考された。

また、FIPATEL部門でも『鼓の家』(相田洋/NHK)、『生きるために声をあげる、中国、エイズウィルス感染者たちの挑戦』(濱崎憲一/NHK)、『エージェント・オレンジ』(坂田雅子)の3作品が選考された。
FIPATELには、ほかに『小林多喜二−時代の証言者』が選ばれたが辞退している。NHK作品は、偶然だがすべて「NHKスペシャル」である。通称「Nスペ」がFIPAの体質に合っている感触を受けた。

FIPAの各部門に選ばれることは、これまでアジア勢にとって大変難しかった。しかし、今年は、受賞を真剣に考えるまでになった。入賞の場合、日本のテレビに速報を流す準備をしていたが、幻となった。

(C)NHK

私見であるが、入賞に一番近いと思われたのが、『ひとり団地の一室で』である。作品は、千葉県松戸市のマンモス団地における孤独死を追い、その犠牲者が40−50代の男性であることを強調している。多くの場合、リストラで職と家族を失い、失意のうちに団地の一室に閉じこもるもので、他人事ではないインパクトがある。

◆大きなインパクト

ピエール=アンリ・ドゥロ総代表は、「これは日本だけでなく、世界的な傾向であり、資本主義の行く末を暗示する」と過激な発言をしている。
最終日、表彰式後のレセプションで、ルポルタージュ部門の審査員2人をつかまえ、この作品が入賞しなかった理由を尋ねた。終わってしまえば鷹揚(おうよう)なもので、2人とも気軽に選出事情を話した。

「問題の重要性は充分伝わるが、それが映像化されないところが不満」「プライバシー尊重の風潮を反映し、ボカシが多用されたが、これは映像の迫力を弱める」と、痛いところを突いた。
 35歳の女性ディレクター、海南(かな)友子の『にがい涙の大地から』は、見る人々に大きな驚きを与えた。個人プロの作品で、現在も中国に残る旧日本軍の化学兵器で病んだ中国人家族を追った作品だ。ドキュメンタリーとは、弱者の側に立つものとする作り手の姿勢が明快に出ている。

また、FIPATELに日本から出品された『エージェント・オレンジ』にも驚かされた。ベトナム戦争(60年−75年)時の米軍による「エージェント・オレンジ」作戦と呼ばれる、枯れ葉作戦の後遺症を描くものである。今でも2世、3世の中に奇形児が生まれる傷の深さを見せ、知らしめる作品である。

これも、女性の個人プロ作品だ。肩肘張らず、日常的アプローチでこつこつと問題の本質に迫る作家の姿勢は貴重なものである。

本選でたった1本選ばれた中国作品は、音楽・ダンス部門の『ミュージック・チャイルド』である。
作品の主人公の少年は一人っ子で、親の期待を担い、バイオリンの英才教育を受けるために音楽学校に入学する。一人っ子政策の社会現象を説明するには、ネタ的に使い古された感があり、今一つ迫力不足だった。

◆学生部門に初参加

FIPAでは、世界の映画学校とその作品紹介をする関連部門がある。今年は、日本から初めて日本大学芸術学部(日芸)映画学科が参加した。この部門は、映画学徒の交流の場で、毎年3−4校が招待される。

今年は、日大芸術学部映画学科、スコットランド・スクリーン・アカデミー、リヨン第2大学−ルイ・ルミエール校、SLIN・フィルム・スクール(チェコ)の4校であった。

以前から、日本の映画学校への招待要請はあった。一番大きな障害は言葉の壁であり、もう一つの障害は、日本は4月開始、欧米は9月という学制の問題である。FIPA開催時の1月は、わが国では学年末にあたり、映画学科の学生にとって卒業製作の時期と重なる。そのため、製作の学生は実質的に、この時期の参加は不可能となる。

学生派遣に関し、FIPA側から「OBでも可能」との提案があり、この障害は除かれた。FIPAは、人員派遣として先生2人と、学生(作品ディレクター)8人のホテル招待を原則としており、これも問題ない。日当は出ないが、毎晩、何らかのレセプションがあり、食事にも困らない。学校側の負担は、成田−ビアリッツ間の航空運賃、約10万円である。

会場は、ビアリッツ市内の映画館が、学生部門専用に確保された。上映会は午後いっぱいで、上映と学校紹介、そして質疑応答となる。日芸の作品は『へなこ』(青木克斉、18分)、『おしまいの一日、はじまりの今日』(田中綱一、21分)、『やさしい雨』(板倉由実、21分)の3本であった。

参加者は映画学科の齋藤裕人助教授。学生としては、ディレクターのOBたちが既に仕事に就いていることから参加は難しく、同学OBである『やさしい雨』のカメラマンの糸井みさの2人であった。

日本の3作品は軽ろみがあり、まとまっていた。そして何よりも、自分たちの世代を描き、そこに無理がないところが良かった。

(敬称略)

中川洋吉・映画評論家