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東京新聞「シネマガイド」
「沈まぬ太陽」

−鶴翼の暗闘 人間ドラマ−

(c)2009「沈まぬ太陽」製作委員会

 壮大な大作で、しかも、ひどく骨っぽい。山崎豊子原作らしい社会的視点が色濃い。
 八十年代に日航の組合委員長が、露骨な報復人事でナイロビ支店へ左遷された新聞記事を思い出す読者もおられよう。この彼の社内での孤軍奮闘が物語の骨子。
 原作は主人公(渡辺謙)が左遷されたアフリカ篇、一九八五年の日航ジャンボ機墜落の御巣鷹山篇、その後、新しくカネボウ会長伊藤淳二を迎え再建の過程を描く会長室篇からの三部構成。

 主人公はカラチ、テヘラン、ナイロビと十年に渉る左遷人事から、本社復帰した矢先に御巣鷹山事故が起り、彼は遺族との窓口担当で奔走する。新会長の許、再建ブレーンとして、彼の活躍が期待される。しかし、時の政府の思惑で、会長は更迭され、主人公は再びナイロビへと飛ばされる。
 高度成長期を背景とし、大部の原作を人間ドラマに焦点を絞り込む西岡琢也の脚本は的を射(い)てる。
 
 二人の旧労組のトップ、主人公と三浦友和扮する副委員長の確執を軸にハナシは進行する。人間の上昇志向、権力欲、保身、裏切り、嫉妬が生々しくうごめく物語の展開は、事実関係を調べ抜いた山崎豊子の独自世界であり、日航に対し、介入する政府筋や旧参謀、瀬島龍三と思(おぼ)しき怪人物の暗躍、運輸官僚の横車、社内の派閥抗争、正に、現在の日航問題を先取りしている。社会性に富む原作、練り上げた脚本、渡辺謙をはじめとし、脇役まで光る俳優陣。今年度のベスト作品候補だ。
三時間二二分。





東京新聞
2009年10年23日夕刊掲載

中川洋吉・映画評論家