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第22回「フランス映画祭2014」が開催
多彩なジャンルの作品そろう
女性監督の"喜劇"にも注目

 22回目を迎えた「フランス映画祭2014」は、6月27日より30日まで有楽町朝日ホールで開催された。12本の長篇が上映され、現在のフランス映画の流れを知る上で、興味深い映画祭であった。

 

上映作品

 12本の長篇作品中、配給が決定した作品が半数の6本を占め、残りは12年、13年作品であった。但し、オープニング作品「グレートデイズ−夢に挑んだ父と子−」は本年度の製作で、主催者、ユニフランス・フィルムが力を入れる作品だ。配給済み作品をラインアップに入れることは、字幕制作費の負担がなく、主催者にとり好都合な側面はある。しかし、これらの作品、数か月後に一般上映館で鑑賞出来、わざわざラインアップしなくとも良いのではないかとの疑問が残り、いささか、安直な感がある。




ユニフランス・フィルムとは


 フランスの海外プロモーションの旗振り役を担うのがユニフランス・フィルムであり、CNC(フランス国立映画センター)の予算で運営され、年間予算は10億円(推定)とされている。職員はパリ本部に30人、世界各国に駐在員を置き、アジアでは東京以外に北京、ムンバイにも駐在事務所を持つ映画機関である。国家機関が自国作品をプロモーションするこのシステム、映画ビジネスの上では大きなメリットがある。メンバーはプロデューサーや配給会社からなり、プレジデントはプロデューサーが就く規定がある。我が国の場合、単発的には行われるが、組織的な映画への公的助成はなく、世界各国の映画関係者にとり羨望のシステムである。
フランス映画は、日本に毎年4〜50本の作品が輸入されている。日本映画の海外販売にとり、このような統一システムの実現が待たれる。


 今年の作品群



 今年の作品の品揃えは、ドラマ、コメディ、アクション、ドキュメンタリーと全体的に目配りされ、興味深い作品を何本か見る機会を得た。全体的に出品作品選考は穏当であり、小難しさが特徴の作品群が多い時期があったが、現在は、一般のフランス人が好んで見る作品中心となっている。以前は、記者会見で質問するヌーヴェル・ヴァーグ・オタクが、来日したフランス映画祭関係者をへきえき辟易させたが、現在はオタクたちがバラけたせいか、若手映画人の実験的作風の作品は確実に減っている。



注目のドキュメンタリー


「バベルの学校」  (C)Pyramide Film

 移民子弟の教育問題を追う
 秀作ドキュメンタリー上映

今映画祭で、一番の作品として、ドキュメンタリーの「バベルの学校」を筆者は挙げる。
フランスは多民族国家で、先祖代々、純粋のフランス人と呼べる層は6千万人の人口の内、約4分の1といわれている。他は、移民で、ヨーロッパ、アフリカ、アラブ、東欧、アジアから来ている。既に何代も前からの移民も多い。しかし、現在でも、続々とフランスを目掛け移住する移民は後を絶たない。多くは旧植民地のアフリカ人やアラブ人であるが、いわゆる、白人の移住者も少なくない。
合法的な移民といわれる彼ら以外、不法移民も多いことは事実である。本作「バベルの学校」は、合法的移民の子弟に焦点を当てている。
世界24か国からやって来た11歳から15歳までの少年、少女たちが主人公である。移民問題は、ヨーロッパ諸国を悩ます現代の社会問題であるが、合法的移民やその子弟に対し、フランス人として生きるための必要な施策が行政によりほどこされている。
言葉の不自由な移民子弟たちに、パリ市の中学校(コレージュと呼ばれる)には、彼らのための特別クラス「適応クラス」が設けられ、生徒たちは、ここで、フランスの中等教育のウォーミングアップをする。それを、女性監督ジュリー・ベルトゥチェリが追うドキュメンタリーが「バベルの学校」である。
クラス担任は、1年任期の女性教諭、彼女は辛抱強く、生徒たちと接する。特に印象的なシーンは、成績が悪く、留年となった黒人女生徒が「これは人種差別」と騒ぐところだ。
彼女の不勉強が招いた留年であるが、自己主張の極めて強いこの少女は、定番通りに差別問題で文句をつける。これに対し、教師は丹念に説明し、納得させるのだが、この誠実な対応には頭が下がる。問題児もいるが、大部分は、向学心に燃え、何とか、新しい環境に適応せんと懸命な努力を重ねる。見ていて不思議なのは、読み書きに難渋する彼らは、話すことはほとんど出来上がっている。フランス語習得に苦労する日本人にとり羨ましい限りだ。教育の場での先生と、生徒との丁々発止のやりとりの面白さが活写され、作品として成功している。子供、教育、そして、生徒の成長が鮮やかに描かれ、ここには、生徒と先生が醸し出す、一体感が溢れている。教育問題を扱った過去の作品、ロラン・カンテ監督の「パリ20区、僕たちのクラス」(08)やニコラ・フィリベール監督の「ぼくの好きな先生」(02)と同様の秀作であり、今映画祭の収穫の1本だ。



絶妙なズレ


「素顔のルル」  (C)Isabelle Razavet-Arturo Mio

 「素顔のルル」(ソルヴェイグ・アンスパッシュ監督、カリン・ヴィアール主演)は、ドラマの範疇に区分されているが、コメディとして楽しめる作品だ。アイスランド出身、フェミス(国立映画学校)で学んだ女性監督とトップクラスの女優ヴィアールの2人は既に「勇気を出して」(99)でコンビを組み、女性同士の相性の良さを見せたが、今作も、実に良い味が出ている。物語自体のおかしみに溢れたズレと、主演ヴィアールの美人でありながら人の善さとズッコケた味を出す演技で、見る人を引きつける作品に仕上げられている。やること為すこと、すべて裏目に出る専業主婦(ヴィアール)の数日間の行動が物語の筋である。就職の面接試験に落ち、帰りの電車を逃した彼女が、気の良い、世間からはみ出した男たちの善意に触れ、金に困り老婆からヒッタクリ強盗を働くが、逆に面白がられ、彼女と同居したり、底意地の悪いカフェの女主人にいじめられているウェイトレスの少女を助けたりと、一寸ズレ気味の話が上手く展開され、そこには1人の女性の精神の自由さを回復する自立の意志が描かれている。ヴィアールの存在と共に、ハナシ事体が楽しめる1作だ。


幸福とは


「スザンヌ」   (C)DR

 「スザンヌ」(カテル・キレヴィレ監督、サラ・フォレスティエ主演)は、幸福について考えさせる作品だ。主人公、スザンヌ(フォレスティエ)は母親を早く亡くし、長距離トラックの運転手の父に可愛がられ、妹と共に育てられる。ここまでは好い娘のハナシであるが、その後にヒネリを利かせている。この良い娘が不良と付き合い、彼に乗せられ犯罪に走るが、自らの意思で犯罪から足を洗い、警察に自首する。同時期に彼女は新しい命を宿す。また、彼女は親や彼女をかばい続けた妹の死を知り悲しみに暮れるが、子供を得ることにより、人生の幸福をしっかりと肌で受け止める。そして、自身、そして、家族の再生をはかる。サラ・フォレスティエの若さが何ともまぶしい。伝えるべきものを持った作品だ。
「素顔のルル」、「スザンヌ」は配給が未定だが、「バベルの学校」は今秋公開予定であり、この3本は是時見て欲しい。






(文中敬称略)

《了》

映像新聞2014年7月14日掲載号より転載




中川洋吉・映画評論家