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2016年度版『世界の映画情勢』
 売上は微増微減の小康状態も
 存在感がひと際目立つ中国市場

図表 「世界映画情勢 2016」
 
人口
(万人)
映画
入場者
(万人)
興行収入 (億円) 年間入場回数 平均入場料
(円)
スクリーン数 デジタルスクリーン数 製作本数 国産映画市場占有率
日本 126.7 166.6 2171 1.3 1303 3437 3408 1136
(*)
55.4%
フラ ンス 66.4 205.3 1556 3.1 761 5741 5751 300 35.5%
韓国 50.6 217.3 1425 4.3 655 2492 2492 269 52.2%
英国 64.8 171.9 1976 2.7 1144 4026 3954 201 44.5%
ドイツ 81.2 139.2 1369 1.17 983 4692 4692 236 27.5%
イタ リア 60.8 107.2 778 1.8 725 3852
(2014)
3525 186 21.3%
スペイン 46.4 94.6 669
2.0 714 3588 3302 254 19.2%
ロシア 146.3 174.1 2912 1.2 437 4021 4021 121 17.4%
中国 1375.0
1260.0
7086
0.9 562 31627 28968 686 61.6%
インド 1292.7
2016.0
1560
1.6 81 11100 2690 1966 85%
アメ リカ 321.4 1197.0 10497 3.7 874 40547 39438 791 88.8%
EU 508.2
976.5
7311
1.9 780 30621 29075 1593 26.1%
(**)

(*) 公開数 (**)ヨーロッパ映画公開数
換算レート2016.09.02現在)
1ユーロ =117円、1$=104円

出典:CNC Bilan 2016
Cannes Festival FOCUS 2016
映連統計 2016

  恒例の世界映画情勢2016年度版をまとめた。
これは、2015年における欧州を中心とする映画統計である。
世界の映画界は微増微減の小康状態が続き、例外的に中国の存在感がひと際目立つ。

 この統計は、フランスのCNC(国立映画センター)とカンヌ映画祭見本市の刊行物を基にし、日本統計は大手映画会社の連合体、日本映画製作者連盟(映連)の統計による。
毎年5月、世界最大の映画祭、カンヌ国際映画祭が催される。CNC統計は文化大臣出席のもと、この時期にお披露目される。CNCはカンヌ映画祭の上部組織で、毎年、この映画祭に助成をしている。450人の職員を有する全国組織で、統計部門も持ち、すべての統計と映画白書がカンヌで出そろい、フランス映画の今が分かる。発表時期が5月のために統計は遅れ気味である。
統計には映画の盛んな欧州、そして米中などの大国、アジアからはCNCの助成組織を研究し、立ち上げられた官製の映画組織「KOFIC」を持つ韓国と取り上げる。


世界映画市場

 フランスを中心に現況を見ていく。欧州は元来、米国映画が強く、国産映画市場占有率ではどの国も低水準にあえいでいる。フランスは35.5%と全市場の約1/3、これでも、欧州地域では一番なのだ。ほかの国々、ドイツ、スペイン、イタリアなどの優秀な映画国はほぼ20%台と、自国映画産業が非常に弱い。
フランスが何とか面目を保つのは、CNCの助成があるからだ。テレビ会社の拠出金が7割を占めるCNCの予算は年間1000億円だが、テレビと映画の共働関係が非常に成功している好例である。


日本の場合

 日本には国家による映画助成組織がなく、民間の映画会社中心である。唯一、大きな組織として映連があり、統計の算出も、入場者、興行収入、スクリーン数に限られ、到底、CNCの組織力には及ばない。聞くところによれば、統計担当者は1人とのこと。ただし、発表は1月下旬となっている。


日本映画の弱点

 日本の映画市場は、入場者が1億6600万人、興行収入は2000億円強の状態がここ数年続いている。
年間入場回数も1.3回と世界的に見ても極めて低水準で、映画館はシルバー、レディースで占められている。
稼ぎ頭は、学校の休暇時期に公開されるアニメものである。映画の企画自体が幼児化し、映画館に足を運ばない男性層に言わせれば、「見たい作品がない」ということになる。
ただし、興行収入は米国、中国、ロシアに次ぎ、収入自体は悪くない。しかし、その収入は映画会社のものであり、日本映界全体を潤しているわけではない。ここが日本映画界の問題点である。若手監督や脚本家、そして、映画保存などの文化への寄与は極めて貧弱だ。




もっと安く映画を見よう

 平均入場料の項に注目してほしい。各国と日本との料金のあまりの違いに驚かされるであろう。日本の平均入場料は1303円、世界一の映画大国である米国は874円、映画助成制度が進んだフランスは761円、CNCシステムを研究した韓国は655円、アジアの大国中国は652円、そして、信じがたい安さはインドの81円である。
世界的に見て入場料金は円換算で3けたであり、日本のそれは際立って高い。ただし、英国も4けたであるが、いろいろ聞き取り調査をしたところ、どうも英国全体の物価高が原因と考えられる。
日本では正規料金が1800円、学生料金が1500円と異常な高さだ。入場料を払い観映する人々にとり高すぎる。これは、映画会社が入場料金アップで経営の帳尻を合わせた結果である。
わが国の入場者数がなかなか1億6000万人台を超えない原因はここにある。例えば、学生料金500円、シルバー800円の料金設定にすれば、観客数の増加につながる考えもある。この可能性に映画会社は賭けてみてはどうだろうか。




映像新聞2016年10月17日掲載号より転載

  《了》


中川洋吉・映画評論家