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『フランス映画祭2019 横浜』
長編15本、短編1本を上映
核になる作品の少なさが不満

 恒例の『フランス映画祭2019 横浜』が6月20−23日の4日間開催された。フランスの映画プロモーション組織「ユニフランス」がオーガナイズするイベントで、1993年に第1回が横浜で催され、今年で26回目を迎えた。この組織を語る上で欠かせないのが「フランス国立映画センター(CNC)」で、終戦の翌年である1946年に設立され、現在に至る。ユニフランスは、自国映画の海外プロモーションを意図しているが、年間1000億円の予算を誇るCNCの直属組織として稼働している。ちなみに、ユニフランスの年間予算は10億円ほどだそうだ。

愛しのベイビー 
(C)2019 - Love is in the Air - Pathe Films - France 2 Cinema - C8 Films - Les

社会の片隅で
(C)JC Lother

ディリリとパリの時間旅行
(C)2018 NORD-OUEST FILMS - STUDIO O - ARTE FRANCE CINEMA - MARS FILMS - WILD BUNCH - MAC GUFF LIGNE - ARTEMIS PRODUCTIONS - SENATOR FILM PRODUKTION

カブールのツバメ
(C) LES ARMATEURS - MELUSINE PRODUCTIONS - CLOSE UP FILMS - ARTE
FRANCE CINEMA - RTS -KNM 2018

男と女III

アイディアル・パレス シュヴァルの理想宮
(C)2017 Fechner Films - Fechner BE - SND - Groupe M6 - FINACCURATE -
Auvergne-Rhone-Alpes Cinema

アマンダと僕
(C)2018 NORD-OUEST FILMS - ARTE FRANCE CINEMA

ウルフズ・コール
(C)2019 - PATHE FILMS - TRESOR FILMS - CHI-FOU-MI PRODUCTIONS - LES
PRODUCTIONS JOUROR -JOUROR

ゴーストランドの惨劇
(C)2017 - 5656 FILMS - INCIDENT PRODUCTIONS - MARS FILMS - LOGICAL
PICTURES

ゴールデン・リバー
(C)2018-WHY NOT PRODUCTIONS

シノニムズ
(C)2018 SBS FILMS - PIE FILMS - KOMPLIZEN FILMS - ARTE FRANCE CINEMA

シンク・オア・スイム
(C)2018 -Tresor Films-Chi-Fou-Mi Productions-Cool industrie-Studiocanal-Tf1 Films Production-Artemis Productions

スクールズ・アウト
(C)Avenue B Productions - 2L Productions

マイ・レボリューション
(C)Agat films & Cie - Ex nihilo

崖っぷちの女たち

規模の縮小

 フランス映画祭は2006年に、開催地が当初の横浜から東京へと移され、その後、東京をメインに実施。フィルム・ビジネスはやはり東京という趣旨である。ユニフランスは方針を転換し、アジア地域も日本中心から中国へと照準を変え、規模は大幅に縮小された。
2017年から元の主催地である横浜に復帰したが、日本に対する映画祭予算も大幅に削られた。この削減に伴い、プログラムすら作成せず、小型化を図り、100人近くの代表団も20−30人と少なくなった。  
  


フランス側の関心の在り方

 ここ数年、フランス側の日本市場に対する関心の薄さが顕著となっている。ビジネスとして、人口の多い中国、インドの将来性を買い、軸足を移した結果であり、フランス映画のアジアにおける日本市場第一主義の大原則は崩れた。
今は中国が最大のターゲットとなった。これも世界的流れの一環とみてよい。また、現在の日本の若い世代が、フランスおよび欧州映画を見なくなったことも、日本後退の傾向に拍車をかけた。



今回の映画祭

 
会場は「みなとみらい地区」で、以前と変わらない。上映作品は長編15本、短編1本。例年の目玉である著名女優が花を添える団長だが、今年は『男と女』(1966年)で知られる監督、クロード・ルルーシュ(81歳)が務めた。
配給のついた作品は8本、残りは7本で、2019年製作作品が10本と、新作ばかりではない。毎年思うことだが、なぜ新作をもっと上映しないのか、今、フランスで流行の作品をファンは待っている。



今年の秀作

 今年最高の1本は『愛しのベイビー』
筆者にとっての今年の1本は、『愛しのベイビー』(2019年/リサ・アズエロス監督、未配給)である。シングル・マザー、エロイーズ(サンドリーヌ・キベルラン)が巻き起こすホームコメディで、笑いと共に、現代のフランスの一面がのぞき見える作品である。
離婚後3人の子供を引き取った美人ママの悪戦苦闘の物語で、随所に、「わかる、そうなのか」の笑いが散りばめられている。
母親はレストランのオーナーで、子供3人抱えても経済的には苦しくない。長男は成人し、今は店の手伝いをしている。大学生の長女は、あまり手が掛からない。次女(タイス・アレサンドラン)は往年の美人女優マリー・ラフォレ(代表作『金色の眼の女』〈1961年〉)の孫娘が演じる、美しい18歳。この彼女が家庭内の引っ掻き回し役となり、母親を悩ます。
試験の日、寝坊をした次女を母親が車で学校へ送る。しかし、スピード違反で警官に呼び止められ、母親は大胆な行動に出る。「今日は生理なの。私の血を見てみる」と持ち掛け、警官は思わず腰を引く場面は、子供のためなら何でもする、母親の血気が充満している。
この美人のママは、時々朝帰り、罪滅ぼしに子供の好きなパンを朝食用として持ち帰る。子供は「パン屋さんに行くのになぜお化粧するの」と幼いながら、お目通しである。
圧巻は、携帯を失くし大騒ぎ、子供たちが手分けをしてGPSで探す一幕には、ほろりとさせられる。
スキンシップが濃厚で、子供たちが幼いころは四角い大きなベッドで4人が寝るあたり、日常の触れ合いが違う。
その母親を、長身ですらりとしたサンドリーヌ・キベルランが、良家の奥様スタイルの役柄から一変しての熱演。役者としても成長している。子供に見守られるような母親から行儀、しつけが自然と伝わるところに作品としての面白さがある。欧米との文化の違いを感じさせる痛快作だ。



社会派作品

 フランスはキリスト教のお国柄を反映してか、困った人々を積極的に助ける社会意識が強い。特に、貧民保護は充実している。
『社会の片隅で』(2018年/ルイ=ジュリアン・プティ監督、未配給)は、貧困女性施設の閉鎖と、それまでの残り3カ月で何とか手に職を付けさせ、一個人として、社会に押し出そうとするソーシャルワーカーたちの奮闘が描かれている。
行政の彼女たちは、過重労働と上からの決定により、がんじがらめで、しかも疲労困憊(こんぱい)の状況にある。このような彼女たちの忍耐強さには、思わず敬服の念を抱く。収容される女性たちは、昼間は施設で技能を学び、施設閉鎖後の夜はホームレスとして外で過ごす最貧困層である。
フランスは、旧植民地支配の代償として、多くのアラブ人や黒人を受け入れているが、大概が低所得者であり、行政や貧困者は生活難に何とか立ち向かおうとする。
フランスの映画界でも、移民、貧困問題に積極的に取り組む一団(主として移民層)の映画人が存在し、現在のフランス映画で一番勢いがあるといわれている。この社会と真っ直ぐ向き合う作品が、『社会の片隅で』である。貧困層救済の精神が貫かれている。



その他の作品

 実力派監督ジャック・オディアールのフランス版西部劇『ゴールデン・リバー』は、米国製と思えるほどの密度の高い秀作である。(7月5日公開)。
一世を風靡(ふうび)したクロード・ルルーシュ監督(『男と女』〈1966年〉カンヌ国際映画祭最高賞受賞)の『男と女III 人生最良の日』(未配給)は、53年後の『男と女』であり、今年87歳の主演アヌーク・エメの美しい老婦人ぶりには息をのむ思いだ。1986年には『男と女II』が製作されている。ルルーシュ監督の商売人振りが光る。
近年、アニメ部門の発展が著しいフランスでは、今回は『ディリリとパリの時間旅行』(2018年/8月24日公開)が上映された。20世紀初頭のパリの実景が美しく、南の島からやって来た黒人少女ディリリが、誘拐事件を解決する楽しい作品だ。
もう1本『カブールのツバメ』(19年、未配給)は、1998年代のアフガニスタンのカブールにおけるカップルの物語である。中東における暴力と混乱、被害者の立場に立ち、現代の悲劇を扱っている。
今年は、ここ数年同様、核になる作品が少なく、その点が不満であった。もっと元気のいい作品があるはずだ。





(文中敬称略)

《了》

映像新聞2019年7月15日掲載号より転載

 

中川洋吉・映画評論家