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『ジャン=ポール・ベルモンド傑作選』
仏映画60年代、70年代を飾る大スター
黄金時代のアクション8作品
HD/4Kリマスター版で上映

 最近のフランス映画で、ジャン=ポール・ベルモンド(1933年−、現在87歳)の名を耳にすることは絶えて久しい。1960年代から80年代にかけて名をはせたスターだが、フランスでも既に引退同然で、その消息をあまり聞かない。日本では、全くといっていいくらい過去の人である。その彼の黄金時代のアクション作品8本が、『ジャン=ポール・ベルモンド傑作選』として上映される。HD/4Kリマスター版で久しぶりに日本のスクリーンで蘇る。

 「傑作選」の上映作品は次のとおり。
1) 『大盗賊』(1961年)=劇場公開は57年ぶり
2) 『オー!』(68年) =同51年ぶり
3) 『大頭脳』(69年) =同51年ぶり
4) 『恐怖に襲われた街』(75年)=同45年ぶり
5) 『危険を買う男』(76年)=同44年ぶり
6) 『ムッシュとマドモアゼル』(77年)=同39年ぶり
7) 『警部』(78年) =同40年ぶり
8) 『プロフェッショナル』(81年)=劇場初公開。

  以上のように、60年代から80年代のフランスでの大ヒット作の網羅で、ベルモンド・ファンならば、大げさだが涙ものの作品ぞろいである。
現在では、洋画はおろか邦画まで、大半のビデオレンタル店では70年代以前の作品は入手困難になっている。それだけに、これは貴重な機会である。本来なら、東京・京橋の国立アーカイブ・センターで上映してもいいくらいだ。
HDまたは4Kのリマスター版であり、映像は極めて鮮明である。最近、映画の修正技術が飛躍的に向上し、可能となった企画といえる。著作権を持つフランスの大手製作・配給会社カナル・スタジオ(本体は有料TV局でサッカーと映画に特化した「カナル・プリュス」)が、売れ筋の作品をリマスター化しての販売政策の一環と考えられる。

大頭脳  (C)1969 Gaumont(Franse)/Dino de Laurentiis Cinematografika(Italy)

プロフェッショナル  (C)1981 STUDIOCANAL


全仏テニス選手権ロラン・ガロスで観戦中のベルモンド (C)八玉企画

全仏テニス選手権ロラン・ガロスで観戦中のシラク元フランス大統領 (C)八玉企画



 
警部  (C)1979 STURIOCANAL - GAMONT

大盗賊  (C)1962 / STUDIOCANAL - TF1DA - Vides S.A.S.(Italie)

オー!  (C)1968 - TF1 DROITS AUDIOVISUELS - MEGA FILMS

恐怖に襲われた街   (C)1975 STUDIOCANAL - Nicolas Lebovici - Inficor - Tous Droits Reserves

危険を買う男  (C)1976 STUDIOCANAL - Nicolas Lebovici - Tous Droits Reserves

ムッシュとマドモアゼル  (C)1977 STUDIOCANAL

生い立ち

 ベルモンドは裕福な家庭の生まれで、父親は著名な彫刻家のポール・ベルモンド、母親も画家である。住居はパリの西、セーヌの対岸、高級住宅街ヌイイ。この辺りが彼の持ち前の育ちの良さ、好感度の高さとなっている。10代はボクシングに凝ったが、両親の反対で断念した。その素地が彼のアクション活劇に大いに役立っている。
やがて演劇に目覚め、1浪後コンセルバトワール(フランス国立高等演劇学校)に入学する。彼にとり、演劇は終生離れぬものであった。体力的に映画がきつくなった後も演劇は捨てず、オペラ座から近い名門劇場「ヴァリエテ」のオーナーとなる傍ら、自身もジャン=ポール・サルトルの戯曲『キーン』の主役を演じている。
映画俳優であるが、もともと演劇青年であった彼の出発は1950年の『眠れる森の美女』であり、晩年も演劇に打ち込んだ。2001年に脳梗塞で倒れ、最近では病気と伝えられている。
彼の劇場「ヴァリエテ」は、実子のポールが受け継いでいる。ポールはF1ドライバーであったが、その後、裏方に徹したようだ。ポールは、ベルモンドの息子だけにモテモテで、モナコの故グレース・ケリー王妃の次女ステファニーとの浮名が芸能誌を飾った。
今回、フランスの「ステュディオ・カナル」が一連の彼のアクションものを化粧直しして再発売となったが、まず、彼の売れ筋、アクションものからとは、いかにもベルモンド商売のツボを心得ている。
70年代、彼はほかの人気スター、例えばアラン・ドロンを抑え、最高給俳優であった。ドロンの方は、現在、一応映画に見切りをつけ、テレビ映画をメインの活動の場としている。ベルモンドのアクションの作りだが、一貫したポリシーがうかがわれる。
最大の売りは、CGがない時代のため、スタントなしのアクションである。カーチェイス、列車の屋根でのアクション、そして、極めつけは飛行機を使っての空中移動で、昨今隆盛のCGアクションは、見る側に作り物のアタマがあるせいか、あまり恐くない。しかし、ベルモンドのアクションは手に汗する恐さがある。 
  


好感度

 ベルモンドは、育ちの良さもあってか、実に感じが良いのだ。在パリ時代、日本人の友人がディスコ(かなり高級な)で直接言葉を交わしたそうだが、彼は「俺、お前」の調子で話したそうだ。この一例のように、彼には親しみやすさがあり、それが、数百万人の客を呼べるほどの人気の理由であろう。
ロラン・ガロスのテニス全仏オープンでも中央の席に陣取り、ほとんど毎日姿を見せた。テニスの写真を撮っていた筆者は、当時パリ市長(後の大統領)のジャック・シラクと言葉を交わしながら観戦しているベルモンドの姿を見た。



男性中心に展開

 
アクション活劇でも007シリーズには「お色気」も売りで、美女がずらりと顔をそろえるが、ベルモンドの場合、彼1人を押し出す手法が多く、ベッドシーンが少ない。
出演女優も大物を避け、新人のマリー・ラフォレ(『警部』)、ジョアンナ・シムカム(『オー!』)、例外としてクラウディア・カルディナーレ(『大盗賊』)、ハリウッド女優のラクエル・ウェルチ(『ムッシュとマドモアゼル』)と地味である。推測するに、ベルモンドのアクションと彼の好感度を強く押し出す作りを狙ったと考えられる。
1960年代、70年代のフランス、そして世界的に「若者の反乱」の季節であったが、その世代の若者の政治、社会的面を排除し、政治性の比較的薄い一般庶民をターゲットとしたフシがある。



豪華スタッフ

 彼の作品群のスタッフがすごい。監督には娯楽映画の達人をずらりそろえている。超大物、ジェラール・ウーリー(『大頭脳』)、ロベール・アンリコ(『オー!』)、フィリップ・ド・ブロカ(『大盗賊』)、アンリ・ヴェルヌイユ(『恐怖に襲われた街』)など、いわゆる客を呼べる高給監督である。
カメラでは、ヌーヴェル・ヴァーグでおなじみのアンリ・ドカエ(『警部』、『プロフェッショナル』)、クロード・ルノアール(『ムッシュとマドモアゼル』)、脚本はフランス映画界の超大物ライター、ミッシェル・オディアール(『プロフェッショナル』、『ムッシュとマドモアゼル』)と、フランス映画の技術力の高さを見せている。この豪華テクニシャンも本シリーズの売りとなっている。




興業成績

 今回のベルモンド傑作選で、200万人以上の観客動員した作品が8本中6本を占める。いわゆる土曜日の夜、肩の凝らない作品を求める層をメインターゲットとした成功作である。
稼ぎ頭『大頭脳』は、渋い英国の名優デヴィット・ニーヴンが悪玉の親分で、ベルモンドと対峙する。標的はNATO(北大西洋条約機構)の金塊を輸送する列車である。悪党の3つ巴の爆笑アクションで、555万人を動員。この数字ベルモンドものとしては最高。
2番目は『プロフェッショナル』の524万人である。ベルモンド扮(ふん)する、軍の諜報(ちょうほう)部員である主人公がアフリカの植民地に派遣され、現地の軍隊内で辛酸をなめさせられる。パリに戻った彼は、軍に対し復讐を試みる物語である。彼の体当たりのアクションが見どころだ。
ベルモンドはアクション喜劇のほかに、ヌーヴェル・ヴァーグの『勝手にしやがれ』(1959年)などの全く畑の違う作品は多い。そして、演劇がある。彼は本来、演劇畑の人間であり、芝居も実にうまい。フランス映画60年代、70年代を飾る大スターを久々に見る機会がやってきた。








(文中敬称略)

《了》

10月30日から新宿武蔵野館ほか全国にてロードショー

映像新聞2020年10月19日掲載号より転載

 

 

中川洋吉・映画評論家